外航海運業の安全管理とクロスボーダー・コミュニケーション : 異文化マネジメント論の観点から
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概要
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本稿の目的は、外航海運業の安全管理に焦点を当て、それを成功裏に行うための国境を越えたコミュニケーション(cross border communication)に関する仮説を、異文化マネジメント論の観点から提起することである。筆者は、大手海運企業の協力を得て、同社運航船で発生した海洋事故に関する詳細な社内資料を入手すると同時に、同社安全管理部門に対するインタビュー調査によって、海運企業の安全管理に関する情報収集および意見聴取を行った。本稿では、この調査から得られたファクトと異文化マネジメントの諸理論をもとに、これらの事故を防止するためのクロスボーダー・コミュニケーションとは何かを提起した。本稿では第1に、大手海運企業で実際に発生した海洋事故事例を取り上げ、事故原因としてどのようなコミュニケーション要因が影響を及ぼしたかを検討した。第2に、海洋事故原因におけるコミュニケーション要因の位置づけを示すと同時に、クロスボーダー・コミュニケーションが行われるインターフェイスが、安全管理の対象である船舶管理や船員業務のどの部分に存在するかを明確にした。第3に、前述の事故事例を踏まえ、異文化マネジメントの諸理論を用いて、外航海運業における安全管理を成功裏に遂行するために、いかなるクロスボーダー・コミュニケーションが必要であるかを提起した。その結果、海洋事故を防止し、安全管理を成功裏に行うための対応策として、以下の4点を提起した。すなわち第1に、船員間でのコミュニケーションにおいて、コンテクスト・マネジメントを成功裏に行うこと。第2に、船舶管理企業によって、船員組織における不確実性回避志向の組織文化を醸成すること。第3に、エッフェル塔型の船員組織において、権力格差認識の差異にかかわらず、制度上の権限が集中する上位者の能力水準を高度化すると同時に、上位組織の船舶管理企業が的確な管理・監督し、組織文化の標準化を図ること。第4に、マルチカルチャー・チームが効率的に機能するために、船舶管理企業による適切なマンニング、異文化理解力の醸成、上位者による海上生活の全般的な文化的対応、海上生活における文化的コンフリクトのフィードバックが必要であることである。
- 2008-09-30
著者
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