外航海運業における人的資源管理と船員市場の内部化
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概要
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本稿の目的は、海運企業による外国人船員市場の内部化に焦点を当て、内部化理論の概念を用いて、船員市場の不完全性、取引コスト、内部化のベネフィットを説明すると同時に、大手海運企業の事例を検討し、船員市場内部化の手段を踏まえた上で、内部化が成功裏に行われるための条件を明らかにすることである。近年、外航海運業をめぐる経営環境は著しく変化している。とりわけ、海運企業が保有する船舶が増加するのに伴って、船員不足が世界レベルで深刻化しており、海運企業は船員の人的資源管理をいっそう戦略的に行う必要性に迫られている。日本企業の場合、船員の大部分を外国人が占めているため、国境を越えた船員のマネジメントがまさに焦眉の課題であるが、その効率的な手法として、外国人船員市場の内部化が挙げられる。筆者は、大手海運企業の協力を得て、船員戦略部門を中心に、船舶管理会社のマンニング拠点に対してインタビュー調査を実施したほか、実際に船舶に乗船し、船員業務の実地体験と、乗組員に対するインタビュー調査を行った。本稿では、理論的検討と合わせ、これらの調査から得られたファクトを用いて、上記課題の検討を行う。その結果、明らかになったのは以下の3点である。すなわち第1に、船員獲得をめぐる競争が激化する中で、外航海運企業の有力な船員戦略の手段として外国人船員の継続的雇用が挙げられるが、それを「船員市場の内部化」として捉え、国際ビジネスにおける内部化理論の観点から、市場の不完全性、取引コスト、内部化のベネフィットを説明することが可能であること。第2に、海運企業による船員市場の内部化は、船員の継続的雇用のほか、教育機関にコミットする手段によって達成されるが、いずれの場合も、海運企業が完全に船員市場を内部化する拘束力は存在しないこと。第3に、その制約条件のもとで、船員市場内部化が達成されるためには、船員が海運企業のもつ優位性を知覚することが不可欠な条件であり、海運企業が船員の人的資源管理を重視する諸施策をとることで、自社の優位性を増大させることが可能となることである。
- 2007-09-30
著者
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