「我々に委ねられた使命」 : オレスティーズ・ブラウンソンの文学観
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概要
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アメリカのキリスト教思想史におけるブラウンソンの特異な位置と貢献についてはすでに本誌前号で述べた通りである。彼はジャーナリストであり、他の評論誌に寄稿していたが、特にカトリック改宗後、同時に自らの機関誌Brownson's Quarterly Reviewを長年主宰し、当時の英国におけるカトリック復興運動とフランス、ドイツにおける知的潮流とカトリック教会の動きにつねに注目し、評論しながら、米国における宗教事情について的確な評論を書いていた。彼の著作は死後息子のヘンリーによって集大成され、20巻の全集として出版され、リプリント版も存在している。本論文はその19巻に収録された文芸評論(その大部分は長い書評といくつかの大学での講演)からブラウンソンの文学観を導き出そうとしたものである。それらの評論は書かれた状況を反映した文章であって、ブラウンソン自身がある一定の体系的考え方に沿って全体をまとめたものではない。評論は30年の間におけるそれぞれの時点の彼の見解であるが、個々の点で相違があっても全体からはある一つの考え方が浮かび上がってくる。ブラウンソンの文学観についてすでにA. Lapatiは彼の小著において先鞭をつけているが、今回それをアメリカン・ルネッサンスの状況の中で見直し、彼がいだいた将来のアメリカ文学に対するカトリック作家の貢献についての考え方をこのコンテクストの中に当てはめて論じることにしたしだいである。ブラウンソンは改宗前エマソンを取り巻くグループの一員であった。彼の著作の大半はニューョークに移ってから書かれたが、商業出版が行き渡り、印刷文化が全米に広まっても、エマソンの「アメリカの学者」をエリート主義だと批判し、一般市民のためのジャーナリズムの役割を高く評価し、「国民文学」の創出のためにいくつかの提案を行っている。彼の書評を通して我々は19世紀後半の米国に大衆小説を含む多くの英国、フランス、ドイツの文学が入ってきていたことをうかがうことができる。それに刺激されて多くの作品が米国で書かれていた。ブラウンソンの文学観の特徴は小説を積極的に評価したことである。エマソンに影響を与えた英国ロマン派の理論家コールリジは「創造」を詩人の活動に帰したが、ブラウンソンはシラーの審美主義・芸術至上主義を痛烈に批判した。彼にとって「創造」はまず神に帰されるべきであり、人間としての詩人の作業は二次的な「創造」である。伝統的なカトリック神学の本性と恩恵の区別と「恩恵は本性を完成する」という定理によりながら、彼は恩恵によって支えられつつも、独自性をもつ本性の領域とその神秘がカトリック文学の豊かな将来の土壌であると考え、そのアメリカ的展開に期待をかけていたのである。
著者
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