「コンベンションと革新〜牧歌風挽歌における冬の風景」
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概要
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無垢や幸福への憧憬あるいは黄金時代の象徴としての牧歌にも死は存在する。死が牧歌の世界に足を踏み入れた途端、そこには哀歌が生まれ、また同時に風景も凍る。自然の恵み豊かな楽園としての春や夏が消失し、荒涼とした冬の枯野が忽然と現出する。古代ギリシャ時代より牧歌風挽歌は詠われ、枯野はひとつのコンベンション(convention)として確立されてきた。しかし、冬の枯野は意味が固定された表面的なイメージではなく、時代によって意味を変化させ発展させてきたものなのだ。コンベンションは革新でもあったのである。それは日本の詩歌においても同様であろう。万葉の時代から芭蕉や子規まで冬の枯野は季語として認識され、常に新しい意味を付与されてきた。本稿は西洋、特に英文学における牧歌風挽歌の中での冬の枯野という伝統的なイメージがどのように扱われているかを代表作品をとりあげながら考察する。枯野にはもちろん政治的、歴史的言及が隠されていることが多いが、本稿では紙数の都合上議論を文学的なコンテクストに限定して慣習的なイメージを詩人たちがどう扱い、どう詩的に革新していったかを、ルネッサンス、18世紀、ロマン主義時代、20世紀の代表的作品を吟味しながら文学史的に追って考えてみることにする。参考として時折日本の代表的詩歌の中の季語としての枯野をとりあげるが、あくまで西洋・英文学の牧歌風挽歌の特徴を明確化する手助けとしてである。本稿は2000年ロンドンで開催された「世界俳句学会2000」での招聘講演を基に書き改めたものである。
著者
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