聽器ニ溢出セル血液ノ運命ニ就テ
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概要
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聽器ニ於ケル出血ハ,其外傷ニヨリテ惹起セラルヽハ言ヲ待タザル所ナルモ其他炎症機轉,出血性素因,血管系統及全身疾患等ニ際シ又或ハ種々ナル化學的物質ノ使用ニ際シテモ之ヲ見タル報告等ハ敢テ鮮少ナラズ.而シテ該聽器特ニ迷路腔内ニ溢出セル血液ハ,果シテ如何ナル運命ヲ辿ルモノナルカハ切ニ吾人ノ知ラント欲スル所ニシテ,シカモ從來ノ斷片的記載ニヨリテハ,之ヲ知悉シ難シ.サレバ特ニ之ニ向テ實驗的攻究ヲ螢ムコトハ極メテ必要ニシテ又興味深キモノナル事ヲ思ヒ,著者ハ本研究ヲ企テタリ.斯クテ實驗ニ當リテハ,先ヅ如何ニシテ.内耳腔内ニ出血セシム可キカノ點ニ就テ充分ノ考慮ヲ拂ヒシガ當該聽器ノ組織ヲ損害スル事比較的少ク.而カモ内耳腔内ニ出血ヲ惹起セシメ易キモノハほるまリん水ノ中耳腔内注入ニアル事ハ我ガ教室中村教授ノ己ニ以前ニ確定セシ所ナルニ鑑ミ,本實驗ニ於テハ,主トシテほるまりん水ヲ海〓ノ中耳腔内ニ注入シ以テ聽器内ニ溢出セル血液ノ運命ニ就テ講究セリ.而シテ聽器内各部位ニ溢出セル赤血球ハ,聽器以外ノ部ニ於テセルモノト等シク,直チニ變化シ始メ,種々ノ階段ヲ經テ遂ニ吸收シ了セラルヽモノナルモ,其變化ノ模樣特ニ之レガ推移ノ状況ハ經過日數出血部位併發セル炎症性滲出物ノ存否並ビニ其種類等ニヨリ種々ニシテ,殊ニ結締織増殖機轉ハ之ニ大ナル關係ヲ有シ,且ツ又使用セルほるまりんノ濃度等ニモ左右セラル.即チ内耳ニ於テハ外淋巴腔ニ於ケル溢血ノ頻度及程度並ビニ溢出セル赤血球ノ變化ハ内淋巴腔ニ於ケル其等ニ比較シテ遙カニ著明ナリ.又廻轉ノ差異ニヨリテモ出血ノ頻度ヲ異ニシ基礎廻轉及先端廻轉ニ於テ著明ナリ.又濃度低キほるまりん水ヲ使用セル塲合ニハ,赤血球ハ主トシテ變性像ヲ示シ,濃度高キモノヲ使用セル塲合ニハ赤血球ハ主トシテ強キ破碎像ヲ示セリ.又白血球ノ著シキ遊走ヲ蒙リタル部位ニ於テハ赤血球ノ變化ハ一般ニ強ク又赤血球ガ漿液性滲出物中ニ存在スル場合ニハ比較的長時日ヲ經タルモノト雖モ尚輕度ノ變性像ヲ示スモノ多シ.尚又同一溢出赤血球集合塊ニアリテモ,該部ニ新生結締織ノ侵入ヲ蒙リタル部位ニ於ケル赤血球ハ他ノ部ニ於ケルモノニ比シテ其變化強度ナリ.而シテ溢出赤血球多量ナル時ハ結締織ノ増殖ヲ促進シ,且之ニ依ツテ赤血球ノ吸收消失ハ促進セラルヽガ如シ.元ヨリ本實驗ハ鼓室性迷路炎ノ下ニ溢出セル赤血球ノ現象ヲ檢索セルモノナレバ,其塲合ニ於ケルモノハ充分明カニ之ヲ知フ得タルモ,更ニ進ンデ之ニ依ツテ得タル成績ヨリシテ直チニ聽器ニ於ケル炎症以外ノ原因ニヨリテ起レル出血ニ際シテノ血液ノ運命ヲ推測スル事ハ當ヲ得ザル所ナリトスルモ,略ボ其状況ヲモ推察スルノ參考ニ資スル事ヲ得ルモノナリト信ズ.
著者
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