イギリス村落形成史の再検討
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概要
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はじめに:1993年に出版した拙著において、中世村落の形成にかかわるその当時の研究を総括して、つぎのように書き記した。(引用文略)すなわち、ミッドランド耕地制の形成とそれと緊密に結びついた有核村落の形成は、アングロ=サクソン時代の中期、おおよそ8~9 世紀になって始まった、と考えられていることを指摘した。それでは、こうした村熔形成の見方は、日本では受容されているのであろうか。その点を確認するべく、つぎに、四野宮三郎『J. S. ミル思想の展開II: 土地倫理と土地改革』 (御茶の水書房、1998年)の9頁から12頁にかけての、共有地の私有化についての説明文を引用しておきたい。(引用文略)なかなか理解しにくい文章であるが、ローマン=ブリテン時代以前に開放耕地制と村落共同体が形成され、その中から有力者が、あるいは外来の侵攻者が領主となって支配する、といった歴史像が描かれているといってよかろう。この歴史像の淵源が奈辺にあるのかは、典拠が明示されていないので不明であるが、ここで指摘したいのは、四野宮のような経済学史の専門家、しかも土地所有思想に関する専門家にあってさえ、開放耕地制と村落がローマン=ブリテン時代よりも以前に形成されていた、といった歴史像が語られている点である。おそらく、こうした歴史像が一般的なのかもしれない。村落の形成については、経済史研究の比重が圧倒的に近現代に移った現在では、そもそも興味関心が薄れているといってよいかもしれない。そうした研究状況の中で、最近の「西洋経済史学をとりまく研究状況を的確に整理し」(帯の文書)たと標傍する西洋経済史学の概説書において、村落共同体の成立という観点から、勘坂純市はドイツ・フランス・イギリスの学説についてつぎのようにまとめている。(引用文略)四野宮がきわめて早い時期に集村化と開放耕地制の成立を措定しているのに対して、勘坂は12世紀から13世紀にかけて集村化が進んだとする。本稿では、このようにさまざまな歴史像が提示されているイングランドの村落と共同耕地制の形成に闘する最近の議論を整理しながら、今後の研究方向を探ってみたい。「イングランド」と限定しているのは、大陸ヨーロッパにおける研究動向を整理するだけの余裕を持ち合わせていないばかりでなく、イギリスといったときに当然視野に入れるべきスコットランドなどの研究状況については不案内なためである。その意味では、きわめて限定的な紹介ではあるが、それでさえも非常に複雑で錯綜しているのが、現今の村落=共同耕地制形成の研究状況である。そもそも、集落形態や土地制度に関心を抱かざるをえないのは、大雑把にみたとき、有核村落と共同耕地制が支配的な地域と、散村とより柔軟な耕地制度が支配的な地域とでは、共同体のあり方、あるいは領土支配のあり方が異なる。それは、単に中世だけではなく、近世に入っても地主と農民との関係が異なっており、それはまた、社会構造の相異としても発現する。もっといえば、経済活動の違いとしても現れ、ひいては工業化の基本的な地帯構造を決定する要因ともなったのである。このような観点からすれば、有核村落と共同耕地制が、いったい何時、どのような状況の下、何処で、誰によって、なぜ形成されていったのか、を明らかにすることは、イングランド社会経済史を理解する上で大いに資するものと考える。
- 2009-02-15
著者
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