十住心思想における「秘密荘厳心」
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概要
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弘法大師空海の著作『秘密曼荼羅十住心論』及び『秘蔵宝鑰』の第十住心「秘密荘厳心」は,「自心の源底」を覚知した真言行者の状態を示す.「秘密荘厳心」の意義を説明する為に,『秘密曼荼羅十住心論』は『大日経』の「百字果相応品第二十品」,『秘蔵宝鑰』は『菩提心論の「三摩地菩提心」の箇所を中心に引用している.「秘密荘厳心」の特徴としては,空海の極めてユニークな総合的解釈が示されていると言える.それを二つの例証で示したい.第一に,心の展開に関連して,各住心の識の数という定量的な考え方と,「百字果相応品」に説かれる「心身の無量性」という質的な面を統合し,他の住心とは異なった第十住心が構築されていると思われる.もう一つの特徴として,第十住心では,各住心における大乗教の深秘釋の一般化を見ることができよう.「百字果相応品」の文脈によりながら,「具縁品」の「二十九字門」を引用し,文字とそれぞれの教えとを神秘的に同一視し結びつけようとするのが,空海の密教的解釈の特徴と言える.各文字に相当する曼荼羅諸尊の三昧地によって,「秘密荘厳心」はあらゆる教えを総合し,「三密行」という新しい実践方法をもたらすことになる.「三摩地の菩提心」と「三昧耶」という二つの重要な概念を「秘密荘厳心」のキーワードとして,取り上げることができる.「秘密荘厳心」という名は,『大日経疏』の「身(語)(意)平等無尽荘厳蔵」の解釈にもとづいている.つまり,秘密に荘厳された四種曼荼羅の無量の身を知るようになるという意味を持っている.実践論に関して,空海は「三昧耶」というヨガの過程を基盤をしている.そして,それが,『秘蔵宝鑰』の「秘密荘厳心」に引用されている『菩提心論』所説の「三摩地の菩提心」に相当すると思われる.「秘密荘厳心」は,空海の横の解釈により,「住心品」の「如実知自心」の究極的な側面と示すものであると言える.
- 2008-03-25