『秘密曼荼羅十住心論』の第七住心について
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概要
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菩提心転昇の次第を説く弘法大師空海の『秘密曼茶羅十住心論』及び『秘蔵宝鑰』の第七住心「覚心不生心」は,「勝義菩提心」に相当する空性を悟る心を展開する最初の段階として扱われている.この住心は,三論宗の教えにあたる.空海は,「八不」や「二諦」を中心に吉蔵の著作である『三論玄義』や『大乗玄論』にもとづいて三論の教えを紹介している.「諸法空性」という中観の典型的な概念は,『大日経』の「心積生」の理論にもとづいて,空海により「心不生」として解釈され,真言行者の心の実相が初めて明らかにされている.「世俗菩提心」を標榜する第六住心の「他縁大乗心」に対して,第七から第九までの住心等は,空性そのものを超える「極無自性心」まで,より深甚に通達していく過程を示されている.吉蔵の思想は「二諦説」を中心とするだけではなく,「仏性」など,空海にとっても大切な問題であろう教説をくわしく扱っていたにもかかわらず,第七住心において,それは述べられていない.『件字義』における「遮存立無是損是減」の言葉などには,戯論をまだ完全に越えていないとして,三論の教えに対して,少しネガティブな観点もうかがわれる.天台理論における「三諦説」や「止観道」に基づく「中道」の意義を,より高く評価していると思われる.深秘釈という側面からみると,「覚心不生心」は文殊菩薩の「大空三昧」や「阿字の法門」に相当する.「秘密荘厳心」から見れば,真理の教えの一つの様相として把えられ,他の住心と同じように,密教的瞑想を通じた一法門と考えられる.
- 2007-03-25