シェアホルダーかステイクホルダーか
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概要
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本稿の狙いは、近年社会的関心の的となっている企業統治の中心的テーマのひとつである統治システムにおける主権者とは誰か、そして彼は現実に統治の担い手であるのかを検討することにある。この領域では、主権者とはふつうシェアホルダー(ストックホルダー)かステイクホルダーかの二項対立モデルとして表されているように、二者に限定される。この主権者モデルは企業のあり方を条件づけている通念を抽出していると同時に、企業統治の実態にも反映されている。また、それは現実の企業社会のあり方を方向づける経済の思考枠組みをも暗黙裡に含意しているのだが、当然ながら現実を忠実に反映するのではなく、本質を抽出するにすぎない。とはいえ、この概念枠組みは依然として有効である。株式会社制度がまだ牧歌的であった資本主義の揺藍期から混合経済の初期にかけて、企業は、エージェンシーを含めてシェアホルダーの支配下にあったといえるであろう。だが、これ以降とくに冷戦構造の終焉以降、市場主義が世界的趨勢となってからは、先進各国の企業のあり方は著しい変化の波に洗われている。変化は、二項対立モデルにも陰に陽に影を落としている。ひとつはステイクホルダーの興隆である。かれらは、しばしばシェアホルダー以上に経営行動に影響を及ぼすようになったが、一口にステイクホルダーといっても、目的・戦略・効果など多様であり、とらえどころがないと極言せざるをえない場合さえ、ままある。以上を念頭に置きつつ、本稿は企業統治問題を市場との関係から整理したうえでステイクホルダー論に与する従業員主権論に言及する。