アフリカ系アメリカ人どうしの会話に見られる性別を反映した言語事例 : 男女間のコミュニケーションストラテジーの比較
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
Yamane (2006, 2007)では,アメリカ社会の中で成功を収めたアフリカ系アメリカ人女性の仲間内の会話を取り上げ,それを言語と性,言語と民族性という2つの観点から考察した。アフリカ系であり,かつ,女性である彼女らの仲間内の会話には,アフリカの話し言葉に根ざした「短いことばのやりとり("call-and-response")」が見られるほか,多重否定, be動詞削除などに代表されるアフリカ系アメリカ人英語(African American Vernacular English,略してAAVE)の語彙的・統語的特徴が見られる。これらの言語的特徴には,黒人男性と白人女性を共に敵とみなし,自分たちのアイデンティティーを維持していこうとする強固な仲間意識が反映されている。本稿では,マルコム・リーの映画『The Best Man』(1999)の中の1場面,ポーカー・ゲームのシーンから, 4人のアフリカ系アメリカ人男性の仲間内の会話を取り上げ,それを分析する。この4人は大学時代の仲間で, Yamane (2006, 2007)で取り上げた女性たちと同様,高い教育を受け,アメリカ社会の中で成功を収めている男性たちである。結婚式のために再会した彼らは,学生時代の思い出にふけりながら,結婚前の最後の夜を楽しんでいる。時に未解決のままになっていた学生時代の問題が持ち上がり緊張が走ったりもするが,会話の内容は,思い出話から現在の状況に至るまで多岐にわたる。この会話分析を通して,高学歴で成功を収めたアフリカ系アメリカ人男性の仲間内の会話が,同じように高学歴で成功を収めたアフリカ系アメリカ人女性の仲間内の会話と,どのような点で同じで,どのような点で異なっているのかを明らかにするとともに,各々のグループに特有の語彙的・統語的特徴及び文体的特徴が,それぞれのアイデンティティー,すなわち,アフリカ系アメリカ人女性としてのアイデンティティーとアフリカ系アメリカ人男性としてのアイデンティティーの構築と維持に極めて異なる役割を果たしていることを実証する。
著者
関連論文
- "Potato Sandwiches (ポテトサンド)"と"Lowdown Dogs (卑しい犬)" : アフリカ系アメリカ人英語に見られるdissingの技巧
- アフリカ系アメリカ人どうしの会話に見られる性別を反映した言語事例 : 男女間のコミュニケーションストラテジーの比較
- ウーマニストの会話に見られる「呼びかけ-応答」形式
- 『ジャングル・フィーバー』に見られる友好的な人間関係形成の方略としてのコード・スウィッチング(岸英司名誉教授追悼記念号)
- アフリカ系アメリカ人英語という言語的方略を使ったアイデンティティの創造 : 映画Bamboozledより (山田利秋名誉教授追悼記念号)
- 黒人英語の語彙形成 : 意味論的分析(第2章)
- 黒人英語の語彙形成 : 意味論的分析 I
- 内容を中心にした黒人英語の教授法のシラバス
- セリーの手紙 : BEV Research からの考察 (山内邦臣教授追悼記念号)
- スラングの形成 : 意味論的分析
- アフロ・アメリカ文化に見られるCall-and-Responseの実例
- 黒人女流文学に見られるVOICEの考察
- 古期フランス語及び中世フランス語における否定
- 中世フランスにおいて犯罪人が作りあげた俗語の意味論的特徴について
- "You is smart. You is kind. You is important." : 『ヘルプ 心がつなぐストーリー』に見られるアフリカ系アメリカ人英語