ウーマニストの会話に見られる「呼びかけ-応答」形式
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概要
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社会言語学においてこの25年の間主な研究対象となってきたのは,言語と性,言語と民族性(とりわけ,言語とアメリカ黒人の民族性)の2つである。これらの研究の増加に伴って,社会的あるいは文化的な要因によって様々な形式をとって現れる言語表現の多様な機能を注意深く考察し,言語使用域,年齢,民族の違いを越えて,公的な会話であれ,私的な会話であれ,また,同性間の会話であれ,異性間の会話であれ,十分な長さの文脈の中で会話というものを捉えていこうとする試みがなされてきている。しかしながら,これまで分析されてきた会話の大部分が,英語話者の,しかも,白人中流階級に属する人たちの会話であり,それ以外の英語話者の会話に関する研究はほとんどない。そこで,本稿では,アメリカの黒人女性の会話を取り上げ,それを言語と性,言語と民族性の双方の観点から分析していくことにする。これまでの研究では,大抵,女性は1つの同質のグループとして分析されてきているのだが,それでは,1980年代後半から1990年代にかけてメディアやウーマニスト文学の発達の中でそれまでとは違ったかたちで描き出されるようになった黒人女性の存在を軽視することになる。その中の共通のテーマとなっていたのは,女性同士のつながりであり,また,そのつながりが彼女たちが生き抜いていくことにおいて果たす役割であった。本研究では,ある決まった文脈の中で発せられた特別な発話行為の1つ,「呼びかけ-応答("call-and-response")」形式を中心に見ていく。アフリカの話しことばに根ざしたこの発話行為は,一般に,相づち,あるいは,最も短いことばのやりとりの1つとして分類されている。分析対象として選んだのは,スパイク・リーの1991年の映画『ジャングル・フィーバー』の中の「軍事会議」の場面である。そこでは,仲の良い黒人女性5人が,そのうちのひとりの夫(黒人男性)の最近の様子と白人女性から見た黒人男性の魅力について話しているのだが,その会話分析を通して,黒人女性の仲間内の会話に見られる形式的な特徴とその機能を明らかにしていく。
- 2006-02-28
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