新宮領の木炭政策と山方の農民
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概要
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近世の熊野は,広大な森林地帯から大量の木炭が江戸市場へ販売された.新宮水野家の専売政策であった.新宮川(熊野川)流域の山村で焼かれた炭は,川船で新宮の池田御炭役所へ運ばれ,川畔に建ち並ぶ炭納屋に貯えられ,江戸市場の状況をみて廻船で送られ,炭問屋の手を経て売り捌かれた.17世紀後半,水野家では江戸屋敷へ常勤する家臣が増加したため,諸経費の捻出に毎年江戸へは15万〜20万俵位の炭を送ってその益金をあてた.領内の山村では,山林地主などの焼主が食糧や資金を焼子に前貸し,焼いた炭で返済させた.また川船へ積み込む所まで,炭を運ぶ人足を常に確保しなければならなかった.これらはすべて農民で,平時は農耕を営み,農閑期に作間稼ぎとして炭の生産や運搬にたずさわった.炭が高騰して販売するチャンスであるのに新宮には炭の貯えがなく,池田御役所の炭方役人が村々へ出向いて焼主たちにきびしい催促をしたり,大庄屋-庄屋の行政組織を活用して出荷を求めている.炭の焼き出しに山村へかなり過酷な負担を強いることもあったが,反面大量の炭の買い付けは,疲弊に苦しむ農民の救済と山村の再生に一定の効果をもたらした.
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