湿地保全をめぐる法システムと今後の課題
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
湿地は,今日もっとも危機に瀕している自然生態系の1つである。1971年にラムサール条約が採択されたが,どのような湿地を,どの程度,どのような法制度で保全するのかについては,すべて締約国の自主的な判断に委ねられていて,日本においては,ラムサール条約の指定登録湿地は,鳥獣保護法の鳥獣保護区や,自然公園法における国立公園の保護地域などにすでに指定されている地域ばかりである。現行の湿地保全の法システムに対しては,(1)現行の法システムは,土地所有権を手厚く保護して規制を最小限度に抑える「財産権偏重」の法システムであるとともに,もともと自然はあり余っており,その利用を図るという前提でできているために,自然を保護しようと多少の修正を加えても,今日の自然環境保全の要請に応えることができない, (2)湿地の自然環境を保全するという機能が非常に弱い一方,自然を過剰に利用する結果,自然環境が破壊されている, (3)生態系を保全するという観点がとても弱く,過剰利用による生態系の破壊が絶えない, (4)登録湿地は水鳥重視で選定され,また地元合意を重視しているため,湿地保全の対象地域が適切に指定されていない, (5)ゾーニング手法が用いられ,また既得権が重視されている結果,土地所有者などに対する開発規制がとても甘い,などの問題点を指摘することができる。今後の課題であるが,湿地一般の保全を目的とした総合的な「湿地保全法」を策定する必要がある。なお,総合的な「湿地保全法」を策定する際には, (1)土地所有権を手厚く保護して規制を最小限度に抑える「財産権偏重」の法システムを転換し,土地利用規制を強化する, (2)環境保全機能を強化するとともに,過剰利用を抑制する, (3)生態系保全の観点を確保する, (4)ラムサール条約の「国際的に重要な湿地」の選定基準を踏まえて,保全対象地域を適切な方法で指定する, (5)湿地保全対象地域の公有化,戦略的環境アセスメントの実施,湿地の保全と「賢明な利用」を組み入れた利用計画の策定・実施などによって,開発規制を強化する,などの視点を盛り込むことが必要である。
著者
関連論文
- 釧路湿原をめぐる法システムと今後の法制的課題
- 判例解説 眺望権による建物建築禁止仮処分申立事件(神奈川県)[横浜地裁小田原支部平成21.4.6決定] (平成21年 索引・解説号)
- 湿地保全をめぐる法システムと今後の課題
- たばこ訴訟の論点と課題
- 諫早湾干拓事業の法的評価と今後の方向性
- タバコ訴訟の動向と今後の法制的課題
- 環境マネジメント・監査手法の考察(下)
- 環境マネジメント・監査手法の考察(上)
- 諫早湾干拓事業の法的評価と今後の方向性
- 判例解説 開発行為許可取消裁決取消請求事件(神奈川県・鎌倉市)[横浜地裁平成21.8.26判決] ([判例地方自治]平成22年 索引・解説号)
- 環境政策における情報手法としてのグリーン購入法
- PRTR法における環境情報の統制
- PRTR法における環境情報の統制
- 書評 阿部泰隆著『行政法解釈学1・2』
- たばこ規制の法システムと今後の法制的課題(1)
- 判例解説 熊本水俣病認定申請請求棄却処分取消等請求事件 : 熊本県[大阪地裁平成22.7.16判決] (平成23年 索引・解説号)
- たばこ規制の法システムと今後の法制的課題(2)
- たばこ規制の法システムと今後の法制的課題(3・完)