認知行動療法を適用したパニック障害の2事例を通した適応への心理的フィードバック過程の検討(シンポジウム 臨床バイオフィードバックの実践-新しい医療パラダイムに向けて-)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本研究は,セルフモニタリングという視点から自己統制感が高まるような生体情報の取り扱い方の認知的回路をモデル化することを目的とした.こうした認知的回路を明らかにすることによってバイオフィードバック(以下BF)の応用可能性が広がると考えられる.個体は内部環境からの情報を手がかりにして随意的にこれを変化させる仕組みを持っている.これを利用し,個体が生理的情報を時々刻々とモニタリングしてその内部環境を最適化された状態に近づけるよう援助する方法がBFであるといえる.他方心理的情報を用いてこれを行うのが認知行動療法であると考えられる.両者の奏功過程には,個体がその内部環境を自己統制するという共通点があると考えられる.したがってこの過程を明らかにすることは意義あることと考えられる.そこで,認知行動的アプローチが奏功したパニック障害の2事例の経過を自己統制という観点から再構成することにより,経過中に心理的側面の生体情報がどのようにフィードバックされているのかについてモデル化した.今回の認知行動的アプローチは,制御標的をあらかじめ設定して行う閉鎖系の治療構造ではなく,来談者が自分の心身の状態と達成可能な行動とを時々刻々と照合しながら自発的に決定する開放系の治療構造であった.2事例ともパニック発作への予期不安のために,公共交通機関に乗れないことを主訴としていた.事例1は自発的な乗車行動,事例2は近隣への外出に対する自覚的不安度が早期に減弱したことをモニターしたことを契機に症状が改善した.2事例の経過中に形成された認知的回路をフィードバックモデル化すると,介入前は認知が症状に焦点化され,不安回避行動をよく選択する「不安増幅型フィードバックループ」に固定化していたと考えられるが,介入後に認知の焦点化が解除されて達成行動を探索する「自己統制感増幅型フィードバックループ」が形成されたと仮定できる.どちらの回路も何らかの形で個体の持つエネルギーを適応のために用いる自己統制の一種と考えられる.この自己統制の過程では,個体が認知するストレス度によって適応のための内的機構が異なっていることがわかっている(佐藤,2007).個体は自覚的ストレスが低いときには内部環境にある様々なレパートリーを用いて環境に適応しているが,ストレスが高い場合はそのレパートリーが単純化し柔軟な対処レポートリーを作り出せなくなるのである.すなわち認知が症状に固定しているときは,自覚的ストレス度は高く,適応のための対処レパートリーは少ない状態であり,認知回路は不安増幅型フィードバックループであると考えられる.しかし症状への認知の焦点化を解除することを繰り返すと,自己統制感増幅型フィードバックループが形成されることにより,対処レパートリーが多く自覚的ストレス度は低い状態に転ずると考えられる.
- 2008-10-25
著者
関連論文
- 認知行動療法を適用したパニック障害の2事例を通した適応への心理的フィードバック過程の検討(シンポジウム 臨床バイオフィードバックの実践-新しい医療パラダイムに向けて-)
- WS2-1 自律訓練法(ワークショップ,第37回日本バイオフィードバック学術総会抄録集)
- WS-4 自律訓練法(ワークショップ,第36回日本バイオフィードバック学術総会抄録集)
- PC1-26 1歳半児の母親の精神的健康に影響を与える要因の検討 : 当該乳児9か月・1歳半時点での要因を中心に(発達)
- PH1-49 課題の認知が大学生のストレス自己統制有機序に及ぼす影響 : 定期試験前後における検討(人格)
- 大学生におけるストレスの心理的自己統制メカニズム : 自覚的ストレスの高低による内的ダイナミズムの比較
- S-1 認知行動的アプローチにおけるセルフモニタリングの有効利用 : バイオフィードバックへの応用の可能性(シンポジウム,第36回日本バイオフィードバック学術総会抄録集)
- ストレス場面からの回復過程を規定する新しい認知モデル構築の試み
- ストレス刺激に対する反応の規定要因に関する理論的考察--自己統制の視点からみた内的過程
- 自律訓練法とセルフモニタリングを用いた現実脱感作法の広場恐怖を伴うパニック障害への適用--不安階層表による自己統制への介入 (ケース報告特集号) -- (ケース報告)
- K320 大学生におけるストレス認知とその対処(口頭セッション53 ストレス)
- 自覚的ストレスの高低が環境への適応過程に及ぼす効果