マルコフ・スウィッチング・モデルのベイズ推定 : 山形県鉱工業生産指数への応用 (柴田洋雄教授退職記念特集)
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概要
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はじめに:経済は日々変化するので、長い期間には大きな変化も発生する。そのような変化に対応しえるモデルとしては、レジーム・スウィッチ・モデルが挙げられる。レジーム・スウィッチ・モデルでは、まず分析期間内の経済状態の変化に応じて、分析期間内の経済をいくつかのレジーム(状態)に分類した上で、それぞれのレジームごとに経済変数に関するモデルを構築する。その後、それらのモデルを状態変数と結びつけることによって、一つのモデルを構築する。たとえば経済を拡張期と収縮期という2種類の状態に分けて、それぞれのレジームにおいて別々のモデルを構築してから一つのモデルにする。本論文で紹介するマルコフ・スウィッチング・モデル(Markov Switching Model、以後はMSモデルと略記する)はHamilton(1989)で提案された非線形モデルであり、状態がマルコフ過程に従って確率的に変化するレジーム・スウィッチ・モデルである。各時点において経済がどの状態に属しているかは状態変数で記述され、その確率分布は観測値から推定される。本論文では、MSモデルを紹介した後に、ベイズ統計学の立場から同モデルのパラメータの推定方法を紹介する。その後で、同モデルを用いて山形県の鉱工業生産指数(Index of IndustrialProduction、以後はIIPと略記する)を分析する。MSモデルは、多様な経済データの分析に利用することが可能であるが、そもそもHamilton(1989)は同モデルによる米国GDPの分析を通じて、同国の景気を分析した。MSモデルによって景気を分析する場合、後述する通り、分析対象は一国である場合が多い。日本を例にとれば、日本全体の景気分析が中心なのであって、関東や近畿といった地域の分析はもちろん、一つの県の分析も従来あまり行われてこなかった。しかし、国全体と地方の景気にズレがあるとも言われているので、地方の景気を分析することの意義は小さくないであろう。以上の理由によって、本論文では、MSモデルを用いた実証分析の例として山形県の景気分析を選んでいる。一国を分析するのに利用されるデータが必ずしも県単位で長期間にわたって得られるとは限らないが、IIPの場合、四半期データが長期にわたって確実に得られる。だから、山形県の景気分析をIIPにMSモデルを適用することで行っている。本論文では、MSモデルの応用としてIIPを用いた景気分析を選んでいるので、以下ではMSモデルの先行研究として、景気分析への応用研究を中心に簡単に紹介してみよう。Hamilton(1989)は、状態がマルコフ過程に従って変化する一変量ARモデル(MS-ARモデル)と米国の実質GDPを用いて、各時点において拡張期である確率と収縮期である確率を計算した。計算された確率に基づいて景気転換点を推定した後で、NBERの報告した景気転換点と比較している。内山(2002)は、状態がマルコフ過程に従って変化する多変量ARモデル(MS-VARモデル)を用いて、米国の景気転換点を推定している。内山(2003)は同様の方法で日本の景気転換点を推定している。日本国内の景気転換点をMSモデルによって分析した研究としては、近畿地方の鉱工業生産指数(Index of Industrial Production)を利用した荒木(2000)が挙げられる。Kim=Nelson(1998)は、好景気と不景気では景気の変動が異なる(非対称)であると考えて、Stock=Watson(1988)で提案されたダイナミック・ファクター・モデルにMSモデルを組み込んだモデルを作り、ベイジアンの立場から推定している。日本のデータについては、Watanabe(2003)で分析されている。2ARモデルやVARモデルにMSモデルを組み込んだモデルの他、GARCHモデルや確率ボラティリティーモデルにMSモデルを組み込んだモデルも考案されており、ファイナンスの研究に利用されている。3本論文では、ベイズ統計学を用いてMSモデルのパラメータを推定した後、景気の拡張期と収縮期も推定し、同モデルが各期をうまく捉えられるのか検討する。したがって本論文は、ベイズ統計学の立場から、Hamilton(1989)の研究を山形県のIIPに応用したものと言えよう。本論文の構成であるが、第2節でMSモデル、第3節で同モデルの推定方法について紹介する。そして第4節でデータとして利用する鉱工業生産指数の説明をした後に、第5節で推定結果を示して検討する。最後に第6節で結論を述べる。
- 2008-07-31
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