谷崎潤一郎の否定的アイデンティティ選択についての分析
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概要
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Erikson (1968/1998)はアイデンティティ拡散の諸相のひとつとして「否定的アイデンティティ」(negative identity)を挙げ,全体主義的に否定的アイデンティティを選択するにいたる誘因として1.アイデンティティの危機,2.エディプス的な危機,3.信頼の危機を指摘している。本研究では否定的アイデンティティを選択した一つの典型例として作家谷崎潤一郎を取り上げ,全体主義的に否定的アイデンティティを選択する心理力動・メカニズムについて伝記資料を用いて示した。谷崎は青年期に至り創作家を志したものの,依然として何物にもなれないという葛藤状況が続いた。1.自らが選んだものに忠誠を尽くすにあたり感じる罪悪感,2.エディプス的な潜在的罪悪感,3.自身の存在にかかわるような罪悪感というように,当時の谷崎には全体主義への変化の誘因が存在しており,それらの罪悪感を否認しつつ主導性を発揮するために,谷崎は全体主義的に否定的アイデンティティを選択したと解釈することができる。また否定的アイデンティティという概念を導入することにより,谷崎の青年期における作家活動および私生活を一貫した内的世界として把握することができ,不良少年の文学・悪魔主義と評される作品を生み出しつつ放浪生活に身を投じ親不孝を繰り返した谷崎の行動,態度,感情をより深く理解することができたと考えられる。
- 2008-08-10
著者
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