口蓋裂患者のスピーチエイド装着上の心理的諸問題
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概要
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口蓋裂患者並びにその母親について、Speech Aid装着上の心理的諸問題を分析、検討し、以下に示す結果を得た。1.昭和48年6月末日現在、装着児34名中30名(88.2%)、装着者6名中1名(16.7%)が、S.A.を装着していた。この様に、大多数の装着児がS.A.を装着しているのに対して、20才以上の装着者では、極めてその数が少ない結果を得た。2.S.A.を製作する際の母親の態度は、医師並びに言語指導者によるS.A.のinstructionの説明の仕方にも影響されているかも知れないが、"子どもが多少嫌がっても言葉が良くなるために我慢させようと思った。"の項に、100%の母親から回答を得たことからして、S.A.装着に積極的である結果を得た。3.装着前のS.A.に対する印象について、装着児は77%、母親と装着者は67%が、"S.A.は話が上手になるものである。"の項に回答する結果を得た。また、装着児の47%、母親の、57%、装着者の50%が、"S.A.を入れなければ話が上手にならないと思うと悲しい。"の項に回答し、装着児の30%、母親の63%が、"S.A.を入れると異物感がすると思う。"の項に回答する結果を得た。4.S.A.装着後のS.A.に対する評価については、大多数の装着児並びにその母親が、望ましい評価と思われる項目群に回答し、望ましくない評価と思われる項目群に対する回答率は高いもので、40%を示すのみである結果を得た。装着者では、S.A.の望ましい評価と思われる項目と、望ましくない評価と思われる項目に対する回答率は、同率である結果を得た。5.装着児並びにその母親は、S.A.装着前より装着後において、S.A.に対する考え方が望ましい方向へ変容する傾向を認め、装着者においては、実用的価値を認める症例が減少する結果を得た。6.S.A.装着後、3ヵ月以内に、開放性鼻声並びに声門破裂音の改善を認めたと回答した装着児(母親の印象も付加されている)の割合は、16名中13名と85%を示す結果を得た。この結果より、S.A.の装着効果判定に、3ヵ月という期間は、一応の目安として考える必要性があるのではないかと考察された。なお、この回答から、開放性鼻声が、声門破裂音に比して、早期に改善される傾向が確かめ得た。7.母親28名中の18名による、子どもが示す言語改善程度の評価は、言語指導者による評価とまったく一致し、言語改善程度がB・C群に該当する子どもを持つ母親6名による評価は、過小評価で、D・F群に該当する子どもを持つ母親4名による評価は、過大評価である結果を得た。8.今後のS.A.装着希望について、母親29名中11名(35.5%)は、S.A.装着に代わる再手術を希望し、8名(25.8%)は、S.A.装着を継続希望し、10名(34.5%)は、再手術をするか、S.A.装着を継続するか迷う、または分らないと回答する結果を得た。言語改善程度別に、今後のS.A.装着希望の有無を検討すると、言語改善の遅い、あるいは、みられないE・F群に該当する子どもを持つ母親では、再手術を希望する者は皆無であり、1名が、S.A.装着を継続希望し、残り1名が、再手術をするかS.A.装着を継続するか迷うと回答する結果を得た。9.S.A.の悪口を言われることによって、S.A.を装着しなくなる症例は皆無であり、装着したり装着しなくなったりする症例は1名で、大多数は、S.A.の実用的価値を認めているためであろうか、S.A.の悪口を言われても、不安、動揺を示さず、そのままS.A.を装着している結果を得た。10.S.A.の改善に対する要望は、主に、形態的な面と、装着に要する時間に対する要望が多かった。中には、"S.A.ではなく、鼻孔に入れるものを作ってほしい。"などのユニークな要望もみられた。以上の結果から大多数の装着児並びにその母親の、S.A.に対する考え方は、装着までの臨床過程における母親への助言や指導等、並びに装着後、S.A.の実用的価値が発揮されること等によって、望ましい方向へ変容する結果を得た。このことは、大多数の装着児並びにその母親は、S.A.装着に満足している結果であると考えられる。一方、実数として、S.A.に適応出来ない症例が存在する事実、S.A.の改善を要望する症例が存在する事実に対しては、今後、何らかの方法で、S.A.の改善を試みていかねばならないと考えられた。装着後の臨床過程においては、言語改善程度を適格に把握出来ない患者、並びに母親が存在する結果を得た。装着後の臨床過程において、私達は次の様なことを、しばしば経験する。患者並びにその母親が、言語改善程度を適格に把握出来ないために、S.A.装着に疑問を抱いたり、S.A.装着後の言語治療の必要性を軽視することが、言語改善に悪影響を及ぼすことである。この様な悪影響を軽減させるために、患者並びに母親に対して、言語改善程度を適格に把握することを指導する必要を認めた。医学的には、S.A.の臨床的適応、並びに効果等に対する診断(判定)を、S.A.装着後3ヵ月後に実施することが意義があるのではないかと考察した。また、S.A.装着に代わる再手術を望む母親が存在することに関しては、S.A.装着と手術との関連性を十分検討し、その可能性を、言語治療の適切な時期を逃がすことなく、追求してゆかねばならないと思われた。
- 日本特殊教育学会の論文
- 1974-12-06
著者
-
柚木 馥
岐阜大学教育学部
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恩田 きくの
愛知学院大学歯学部付属病院言語治療室
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藤島 けい子
愛知学院大学歯学部付属病院言語治療室
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下村 美雪
愛知学院大学歯学部付属病院言語治療室
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吉田 稔
愛知学院大学歯学部第一口腔外科学教室
-
今野 蓉子
愛知学院大学歯学部第一口腔外科学教室
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柚木 馥
岐阜大学特殊教育学科
-
吉田 稔
愛知学院大学大学院歯学研究科第一口腔外科学
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