残存ブナ個体群における遺伝的多様性と空間的遺伝構造の大面積調査
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概要
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樹木個体群の遺伝的多様性と空間的遺伝構造は,種子散布と花粉散布を介した遺伝子流動範囲に大きく影響される。しかしながら,これまでに森林内の優占樹種を対象として行われてきた研究では,遺伝子流動範囲をカバーする面積を対象とすることはほとんどなかった。そこで本研究では,伐採によって分布の連続性が低下したブナ個体群を対象として,残存するブナ成木の遺伝的多様性と空間的遺伝構造を大面積調査によって明らかにした。これによって,1)遺伝子流動範囲における詳細な遺伝構造と,2)残存ブナ個体群における遺伝的多様性と遺伝構造の現状,3)伐採等による樹木個体群の小集団化が遺伝的多様性と遺伝構造に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。2005年及び2006年の早春,東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター内の約500haの同一河川流域内に設定した調査地内をくまなく踏査し,胸高直径15cm以上の全てのブナ成木1571本から葉の採取を行った。それらについてSSR7遺伝子座の遺伝子型を決定し,遺伝的多様性と空間的遺伝構造について解析を行った。その結果,残存ブナ個体群においては,分集団間レベルでは遺伝的に有意な集団の分化は起きていないが,個体間レベルでは約90m未満の範囲に遺伝的に類似した個体が生育していることが明らかとなった。また,残存個体群において遺伝的多様性が低下している傾向は認められず,近親交配が過剰に起きている傾向も認められなかった。さらに,小集団化後に更新したと考えられる成木であっても,遺伝的多様性の低下や遺伝的な集団の分化の傾向は認められなかった。これらの結果は,ブナの遺伝子流動の特徴である近距離の旺盛な種子・花粉散布と,量的には少ないが種子生産に効果的に働く長距離花粉散布を反映したものであると考えられた。
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