マレーシアのマレー人ムスリム社会における公共圏の形成とイスラーム主義運動
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概要
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ムスリム社会には、元来イスラームの論理に基づいて討議が行われる、ワクフ(寄進)の空間、ウラマー(イスラーム学者)、タリーカ(イスラーム神秘主義教団)が主導する、「公共圏」に類する空間があった。ハーバーマス的な単一の市民的公共圏ではなく、複数の公共圏的空間が存在した、という前提のもとに、現代ムスリム社会におけるイスラーム運動には、過去にあったイスラーム的公共圏を回復していこうとする試みとしての側面を見出すことができる。現代マレーシアのマレー人ムスリム社会において、イスラーム主義運動などがつくりだす討議の空間がある(チェラマ、ウスラ、フトバ、インターネット、カセット・テープ、VCD)。それらは、ナンシー・フレイザーのいう対抗公共圏(counter publics)に類似している。イスラームの対抗公共圏では、イスラームの論理が蓄積してきた言説の資源(discursive resources)が流通している。このような現象は、イスラーム主義運動の近代化大衆化の中にも見出すことができる。マレーシアにおいて政府の統制下にある「主流」の公共圏と代替・対抗公共圏の関係は、単純な対立でも「無関係」でもない。両者はイスラームの論理による共通項を持ち、両者をつなぐいくつかのチャンネルがあり、主流の公共圏もイスラームの論理に基づく対抗公共圏からのアジェンダ・セッティングを無視できない仕組みがある。マレーシアで言われるところの「イスラーム化」はこの主流の公共圏と代替・対抗公共圏の相互作用のプロセスをとおして進行していると考えられる。また、このプロセスは、ムスリム社会におけるウラマーの機能、統治者との関係などイスラーム的社会秩序実現のためのメカニズムを漸進的に回復していこうとする試みでもある。
著者
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