探索・神長倉真民 : 補説『会社という言葉』(4)
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概要
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前々稿で神長倉真民の名を挙げ,前稿でその歴史学に照明を当てた。だが到底これで語り尽くせる人物ではない。経歴も多彩だが,著書は12冊,いずれも型にはまらぬ活きた筆致で書かれている。主題は閥族・能率・内外経済・経済史・経済学史と多方面に渉り,それぞれに先駆的で刺戟的である。中でも晩年の,財政を焦点とする幕末維新史3冊は,新資料発掘を含む問題提起として,歴史学界の高い評価を得て不思議はなかった。ところが学界が問題にしたことが殆どなく,引用されても目を惹かないためか,現存の歴史家でその名を知る人がない。つい先頃出版された,高村直助『明治経済史再考』が唯一例外である。そうした状況に対応するのだろうが,各種人名辞典・著作者名辞典にも神長倉の名はない。これだけ有意義で魅力的な文筆家の名が,なぜか公衆に殆ど知られていないのである。他人頼みでは何も判らない。前稿準備前から手探りで探索を始め,今年に入って多少深入りをした。未だ完成の域には達しないが,略年譜なら示せるところまで来た。またその過程で,神長倉の著書や雑誌記事を漁り,諸著作間の関連を捉える傍ら,前稿の誤りもいくつか見出した。そこで本稿では,前稿の訂正を含めつつ,主として経歴を示す。といっても,実生活に関する資料は極めて少ないから,活きた人物像はまだ正確に描けず,文筆家としての経歴が中心になる。そればかりか,資料の確かさも完全には示し得ない。近頃急に煩くなった,個人情報保護法やら情報公開法やらのおかげで資料破壊と情報秘匿が進み,探索が著しく困難になった。のみならず,正確のためや感謝のために情報源を目一杯書くと,逆にとんだ御迷惑を及ぼす恐れもある。神長倉人物史は文書資料が極めて少なく,二次的文献と伝聞と推理に依拠して大筋を辿るしかない。そこへ個人情報保護などと居丈高に叫ばれると,追跡可能なほど資料開示ができなくなる。何事にもアメリカの猿真似をしたがる時代風潮が齎した歴史破壊,日本文化の自己破壊である。そうした制約を承知の上でお読みいただきたい。
著者
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