上胸骨鎖骨筋(M. sternoclavicularis superior)の形態形成学的考察 : 浅頚筋群における過剰変異筋
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概要
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浅頚筋(胸鎖乳突筋,広頚筋,舌骨上筋群,舌骨下筋群)は変異が多いことで知られ,また頚部浅層ではそれに類すると思われる破格筋の出現が報告されている.そこで本研究では頚部浅層に出現した過剰変異筋の調査,研究を行った.上胸骨鎖骨筋M. sternoclavicularis superior (Hyrtl 1858)は66体132側のうち3体6側(4.55%)に出現し,いずれも両側に存在した.そのうち3体4側において支配神経が確認できた.これらは全て胸鎖乳突筋の背側深面に存在し,胸骨柄上部に起始を持ち,筋腹は胸鎖関節上面を走行し,鎖骨上面に停止する.支配神経は主に頚神経ワナ上根または頚神経ワナから分岐する上位舌骨下筋群(主に肩甲舌骨筋上腹)の支配神経と共に分岐し,肩甲舌骨筋および頚神経ワナの腹側浅層で胸鎖乳突筋の背側深面を,胸鎖乳突筋の長軸方向に沿ってその筋膜に付着するように下行し,上胸骨鎖骨筋の上面から侵入した.またその走行は胸鎖乳突筋に進入する動脈および静脈に伴走した.また以上の上胸骨鎖骨筋の出現した解剖体2体2側において,さらに別の2種類の破格筋が出現した.一つは鎖骨舌骨筋M. cleidohyoideus (Gruber 1873)で鎖骨上面から起始し,筋腹は肩甲舌骨筋の腹側浅層で胸鎖乳突筋の背側深面を上行し,舌骨下部の肩甲舌骨筋停止の浅層に停止した.その支配神経は頚神経ワナから分岐し,上胸骨鎖骨筋の神経と同様に肩甲舌骨筋および頚神経ワナの腹側浅層で胸鎖乳突筋の背側深面を走行した後,筋の外側下部から侵入した.なおこの例における上胸骨鎖骨筋は非常に貧弱で,停止部が鎖骨舌骨筋の起始に接しており,この筋には鎖骨舌骨筋内から出る神経の小枝が分布した.もう一つは顎二腹筋に付着する破格筋束で,顎二腹筋の滑車およびその付近の中間腱下面に起こり,そこから中間腱の後腹との移行部下面の筋膜および舌下神経-茎突舌骨筋間の結合組織に放散して停止する上筋束と,舌下神経の内側を下行し舌骨大角の下面および甲状軟骨上角に停止する下筋束に分かれた.支配神経は舌下神経の上面のほぼ同位置からそれぞれ分岐し,上筋束には下方から,下筋束には後方から進入した.これらの破格筋群の支配神経に対し,ズダンブラックによる神経染色及び実体顕微鏡下での神経線維解析の結果に基づいて考察を行った.その結果,上胸骨鎖骨筋および鎖骨舌骨筋はともに頚神経ワナの形態(内側型,外側型)に関係なく主に頚神経C1およびC2からの神経支配を受け,肩甲舌骨筋上腹の支配神経と非常に高い関連性を持つことが判明した.よって上胸骨鎖骨筋および鎖骨舌骨筋は舌骨下筋群,そのうち頚神経ワナ上根由来の筋と同じ筋板から発生し,とくに肩甲舌骨筋上腹に非常に近い筋であり,同一の発生由来を持つ兄弟筋と推測された,一方,顎二腹筋付着の破格筋は舌下神経のみから神経支配を受けることが観察されたことで,この筋は舌筋群に由来し,舌筋群が後頭体節から移動する際に分離,舌骨および甲状軟骨に付着したと推測された.
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