戦後日本の高度経済成長と労働倫理
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概要
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本稿は戦後日本の高度経済成長が日本人の伝統的な、仕事は怠けず、一生懸命に働くべきだという労働倫理によって支えられていたことを実証的に検証しようとしたものである。当時、「過労死」という現象が日本独自のものとして世界的に注目を集めていたこともあり、「過労死」を日本の高度経済成長と関連させて考えることは非常に重要なことであった。まず、第一章では、戦後の日本がとくに昭和35年(1960)から同45年(1970)の10年間に、いわゆる高度経済成長をとげたことを統計的に示し、次に日本人の労働倫理(労働であるべきとされるありかた・生き方)の特徴を6ヵ国との比較から明らかにした。それは簡単にいえば、仕事を生きがいとするもので、日本人にとって仕事は自発的に喜んでするものであった。次にその労働倫理形成の原因を直接的・間接的の両面から考察し、第二章では、経営者が労働者のその労働倫理をたくみに利用して企業利益をあげる仕組みを考察した。それが「過労死」へと発展するのだが、それに対する労働者側の自覚は遅い。しかし高度経済成長の終わったころから、従来の労働倫理に対する考え方が変わり始めた。端的にいえば、仕事より趣味や家族との団欒を優先する考え方である。この傾向は諸種の統計から明らかで、労働者がやっと経済的に豊かになっても、体をこわし、家庭を崩壊させたのではなんにもならないことに気づいたのである。最後に今後の課題として、労働倫理の再確立の必要を、つまり、生きるための労働、私的な労働から公的な労働へという労働観の転換が、政治家と経営者、さらに民衆自身のあいだで必要と論じた。
- 福岡医療福祉大学の論文