糖質に関する研究 : 第二報インシュリンの作用機序
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
インシュリンの生理作用は血糖を組織において酸化燃焼せしめ,又,肝臓においてグリコーゲンの合成に利用される形態に変化せしむる事であるが,多くの研究者の努力にも拘わらず未だに不明である。著者は血糖が循環血液中でインシュリンの作用によつて,還元力による糖の量に比較して旋光力の低くなること及びぶどう糖よりも生理的に活性の強くなることの説明を化学的に試みようとして先ずインシュリンの結晶を分離し,試験管内でタイロード液にぶどう糖を溶解したものに作用せしめると果糖に変化するがリンガー液では変化が起らない。これはタイロード液中の燐酸塩が絶対に必要なことが明らかとなつた。即ちぶどう糖はインシュリンにより燐酸塩の存在で分子内転位を受け,その変化は1/3で平衡に達する。この変化によつて旋光力の低くなること,生理的活性の強くなること,醗酵力のあることは説明できる。又糖尿病患者が果糖を利用できることも,果糖はインシュリンなしに組織で燃焼されることも,グリコーゲンの合成が行われることも説明できる。この研究中に血糖の中のぶどう糖(アルドーズ)と果糖(ケトーズ)とを区別する鋭敏な試藥を考案した。又セリヴァノフの反応を利用して果糖の定量を行い,これによつてインシュリンの果糖に変化するに限度のあること,最適温度は体温よりも遙かに低いこと,最適の水素イオン濃度はインシュリンの等電点附近であること,その他各種動物血糖中の果糖の定量,インシュリンにより生じた果糖の分離精製,果糖は血球中になく血漿に存在すること,インシュリンはマンノーズもぶどう糖と同程度に変化するが乳糖,麦芽糖は2分の1,キシローズ,蔗糖は少しも変化しない等の事実を明らかにした。動物体内ではインシュリンは最適条件で作用しているのではないが,変化して生じた果糖は移動され,燃焼に,グリコーゲン生成に連続的に消費されるから反応は平衡に達しないで進行するものと考えられる。
- 帯広畜産大学の論文
- 1952-03-25
著者
関連論文
- 糖質に関する研究 : 第一報血糖の一新比色定量法
- 糖質に関する研究 : 第三報寒冷により血液の凝固しない原因
- 糖質に関する研究 : 第二報インシュリンの作用機序
- 蛋白質アミノ酸に関する研究 : 第一報システィンの加水分解