随伴する筋緊張が反応動作の情報処理過程に及ぼす影響(大学院スポーツ科学研究科博士論文要旨)
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概要
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本研究は古くて新しい反応時間(Reaction Time)研究パラダイムに属する問題群を扱っている。実験心理学の代表的な反応測度としての反応時間は、主として刺激呈示から反応開始までの認知的な情報処理時間のデータを基礎にして心的過程を明らかにしようとしている。しかし、反応時間に関する多くの理論モデルや方法の変遷にもかかわらず、反応時間を産出している脳内の情報処理機構は、未だに明確な説明がないのが実情である。本研究の主題は、過去に主動筋の予備緊張は主運動の力やパワーの発揮に効果的な役割を果たすという知見を背景にして、では主動筋ではない筋の緊張が主運動のパフォーマンスにどのような影響を与えるのだろうかと考え、以下のような目的と仮説を設定し研究を実施している。研究目的 : 主動筋ではない左右の上腕二頭筋の等尺性随意的筋収縮に随伴する筋緊張(以下随伴する筋緊張と呼ぶ)を各被験者ごとに7つの割合(0%, 20%, 30%, 40%, 50%, 60% MVC)に設定し、その筋緊張が主運動の左右の膝の素早い伸展動作に与える影響を検討している。そのために、随伴する筋緊張が膝の素早い伸展動作(単純反応、弁別反応、および選択反応というように反応課題の困難度を操作しながら)が運動成績、刺激処理過程、心的過程などのより認知的な情報処理過程にどのような効果を及ぼすかに分析の焦点を移行させたアプローチを採用している。研究仮説 : 上記の研究目的を検討するために、以下のような研究仮説を設定している。仮説1.主動筋ではない筋の緊張を独立変数とし、主運動の成績を従属変数とした場合、その間に逆U字関係が認められる。仮説2.主動筋ではない筋の緊張が中枢での覚醒水準を仲介として、情報処理過程に影響を及ぼすと考えられる。研究方法と結果 : 被験者は大学生男子で全員右利き。彼らはピストル音あるいはホイッスル音の刺激呈示と同時に随伴する筋緊張課題と膝の素早い伸展動作課題(単純反応、弁別反応、選択反応)を7つの条件(0%, 10%, 20%, 30%, 40%, 50%, 60% MVC)で各10試行行った。刺激呈示確率は単純反応100%, 弁別反応50%と20%, 選択反応50%。反応測度は、単純反応時間、弁別反応時間、選択反応時間、運動時間、総合反応時間、筋電潜時, 反応遅延時間などを用いて仮説を検討した。主要な研究結果は以下の通りである。1)単純反応課題では、随伴する筋緊張が単純反応課題の情報処理過程に影響を及ぼさなかった。他方、弁別反応課題と選択反応課題では、随伴する筋緊張の10%と20%MVCのレベルが主運動の総合反応時間と弁別反応時間、それに選択反応時間を有意に短縮させ、逆U字型の関係が明らかとなり、仮説1は支持された。2)また、情報処理のための系列的操作を含む弁別反応時間と選択反応時間を弁別反応時間と筋電潜時・反応遅延時間、選択反応時間と筋電潜時・反応遅延時間に分けて、随伴する筋緊張がどのように情報処理に影響するかを検討した結果、随伴する筋緊張の10%MVCで最も反応時間が短縮し逆U字型の関係が認められ、仮説1と2が支持された。3)さらに、運動時間や反応遅延時間などの効果器系は、随伴する筋緊張の影響は見出されなかった。本研究の結論は、課題の困難度の異なる反応時間課題を遂行する際に随伴する筋緊張は主運動の情報処理過程に作用し、運動実行過程には直接作用しない。そして主運動の最適な筋緊張レベルは10%から20%MVCである。以上の結果を踏まえて、Donders (1969)の「反応時間課題の分類」モデルを参考にして情報処理過程の時間要因を単純反応時間、刺激分類時間、反応選択時間に分け、主運動の成績予測の可能性を検討している。その結果、右腕-右膝の場合は、単純反応時間と刺激分類時間の値から反応選択時間を予測可能。また、左腕-右膝の場合は、単純反応時間と反応選択時間の値から刺激分類時間を単純反応時間と刺激分類時間の値から反応選択時間をそれぞれ予測可能としている。Dondersを含めそれ以外の研究者の情報処理モデルが検討されているが、それらは刺激から反応までの線形段階的な情報処理モデルである。問題は情報処理過程中での各段階間のフイードバック情報の相互循環回路が明示されていない点である。しかし、これらの問題点については総括的討議で触れられているので評価できる。さらに、主運動に対する予備的筋緊張も重要であるが、生体は機能の異なる要素から構成された自律分散システムであることを認識すれば、本研究で検討された主動筋でない筋の随伴する筋緊張が主動作の最適な運動発揮への貢献度をさぐるこの種の研究の意義は重要である。
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