人類学のジェンダー研究とフェミニズム(<特集>ジェンダーの人類学-その困難からの展開)
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概要
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ジェンダーをめぐる人類学は、過去30年にわたって多数の理論書、問題領域別あるいは地域別の論文集、そして個別社会の民族誌を輩出してきた。そしてジェンダー概念を生み出したフェミニズム理論、あるいは同じくフェミニズムの影響を受けた他の学問分野と密接につながりつつ、その理論と実践を磨いてきた。しかし、自らの社会ではなく、あえて他の社会のジェンダーを対象化する人類学の場合、社会変革を視野に入れたフェミニズムの政治的前提を無批判に受け入れることには困難がつきまとう。では、フェミニズムという政治的・理論的立場を抜きにして、人類学のジェンダー研究は成立するのだろうか。その場合のジェンダーとは、主題の一つにすぎないのだろうか。インドネシアのジャワ、およびバリ社会に関する人類学的研究では、フェミニズムの問題関心と結びついたジェンダーの分析視角が加わることにより、ただ単に女性の役割や位置づけを論じるのではなく、国民国家の成立や産業資本主義の進展などを背景に、政治的・経済的枠組みの変化が既存のジェンダー観念とどのように結びつき、またはそれを改変してきたか、あるいはジェンダーに基づく差異がその他の差異とどのように交錯し、個々の女性や男性にどのような影響を及ぼしているかといった問題に光が当てられてきた。こうした事例からも窺えるように、ジェンダーは主題の一つに数えられるものというより、あらゆる主題に切り込む切り口である。その切り口を欠いたジェンダー研究は、かつての性別役割研究と同義に過ぎなくなる。だが同時に、ジェンダーの人類学とフェミニズムを不可分のものと決めつけるべきでもない。ジェンダーの人類学が負う課題の一つは、個別社会における現実理解を通じて、西洋世界の現状を踏まえがちなフェミニズムの理論や概念枠組みを相対化し、必要に応じて修正することではないだろうか。
- 2003-12-30
著者
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