共同体性の近代 : バリ島の火葬儀礼の実施体制の変化から考える(<特集>国家政策と近代)
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概要
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本稿はバリ島の火葬儀礼という具体的事例をとりあげ、村や集落という共同体的なまとまりがそれにどう関わり、またその関わり方がどう変化してきているのかを検討しながら、近代的状況における共同体性のあり方を探ることを目的とする。バリ島の火葬儀礼は、遺体を灰にすることで死者の霊を浄化し祖先霊に格上げする一段階として重要な通過儀礼のひとつだが、従来は死者の遺族がそれを主催し、経済的負担の大きさから社会的地位の高い者が威信をかけて行うという面が強かった。バリがインドネシアに編入されて国の宗教統制が及ぶと、バリ人の信仰はヒンドゥー教と認められ、火葬はヒンドゥー教徒の義務ということになった。死の穢れは遺族のみならずその回りにも及ぶため、1963年に全島規模の大祭が催された際に、その準備のために合同火葬という様式が導入されて、軽減された費用で多くの人が火葬を実施できるようになったが、主催者はいぜん遺族たちだった。2003年に筆者の調査地であるボナ村で催された火葬儀礼で、主催者を遺族たちから集落全体にするという変更が、集落会議で了承され実施された。主な理由は遺族の負担のさらなる軽減だったが、火葬しないままにしておくと村全体が穢れるという理屈も議論の中で言及された。これは、火葬の義務が遺族だけでなくヒンドゥー教徒全体の義務であるという認識と実践が、集落レベルで定着しつつあることを物語っている。こうした火葬儀礼の実施体制や意味付けの変化に連動して、集落や村といったまとまりのもつ共同体性も、歴史的経緯で集まって住む家族の集合体から、ヒンドゥー教徒を自覚する個人の集合体へと変化してきている。それは国の宗教政策がもたらす社会状況に呼応した、共同体性の近代変革と言える。
- 2005-03-31
著者
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