ニーチェと映画的思考
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概要
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技術時代の到来とともに、その特性である反復性・コピー性を核として形成されたニーチェの思想は、複製技術の芸術として誕生した映画のあり方、コピー、仮象、フェイクといった言葉で特徴づけられるそれと密接に結びついている。他者を演じること、本体を欠いた仮面・仮象となることによって、もはや単一の<私>ではなく、スクリーンに投影される無数のイメージの交替のような複数の<私>への変容を生きるニーチェ的主体は、多様な仮面のもとでの無名の民衆の反復回帰を舞台化して見せるオリヴェイラ、ロッセリーニ、ルノワールらの作品において、その反復性をとおして民衆のチャップリン的逞しさを表現するものとして現れる。ニーチェが未来の芸術の可能性を民衆の言葉の音楽性の自由な駆使に見たことに呼応するように、無名の民衆を主人公とするこのニーチェ的仮面劇が、何よりも民衆の言葉の響きを聴かせるという聴覚性に重点をおくものとして構想されていることは、これらの作家が映画という媒体と深く関わることをとおして、意識的にせよ無意識的にせよ、映画的思考の先駆者としてのニーチェと深く結ばれていったことを示している。
著者
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