エコシステムとしての子どもの発達環境 : 人間形成理念の社会的共有と諸教育機能不全の克服に向けての考察
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概要
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筆者は先稿において「成長の出発点としての就学前期の生活経験の意義と課題」(『大阪教育大学紀要 第IV部門』所収)を考察した。就学前期はその取り組みの多様性において,「教育」的側面が必要充分に意識され実践されているとは言えないが,言語の発達や身体能力の発達,さらにはその後の子どもの発達可能性を決定すると言えるほど重要な時期であることは間違いないことである。就学以降の教育的営みが十分にその効果を発揮するためには,保護者や保育者・教育者が今にも増して子どもの就学前期の生活経験の意義を十分に理解することに努め,子どもの性質と環境の特質に合致した適切な支援と指導を行うことが求められるのである。本稿は上述の「成長の出発点としての就学前期の生活経験の意義と課題」の結論を受け,その考察対象を広げ,未成年期全般における子どもを取り巻く教育的環境をエコシステムとしてとらえることから子どもの発達支援にアプローチすることとしたい。一般に子どもは素質と環境によって発達すると考えられている。社会一般でも環境が子どもの発達に及ぼす影響についてはさまざまは形で日常的な教育的営みの中に取り入れられている。環境と子どもとの相互作用に関しても考慮されているケースは少なくない。このことは有効な教育的営為を生み出すことと思われるが,本稿ではその考え方に別の観点を組み入れることとしたい。それはすなわち子どもと外的環境との関係を単に異なる二者の相互関係として把握して考察するのではなく,環境というものを子ども自身をその中に含み込んだひとつのシステムとしてとらえるというアプローチである。教育に関わるさまざまな主体が現代社会の教育問題に有効な処方を見いだすことができないでいる現在,教育的環境や教育的営為をひとつの有機体的システムとしてとらえることによって,現在の教育的諸問題をもたらしている原因構造を究明し,その原因構造を改善するためにいずれの環境的要因を改善し,いずれの教育的営為の要因を改善すればよいのかという形で教育的諸問題解決のための処方を探るアプローチを提案することが本稿の目的である。その結果として,ひとつの教育的問題が解消されなくとも,問題解決のために追究対象とした諸要因の範囲を拡大し,あるいは別のシステム論的考察を採用することによって「教育」改革への歩みは着実に前進すると思われる。筆者はこのことを研究課題として位置づけ,取り組みを継続していきたいと考えている。
- 2006-09-29
著者
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