学力の構造解明への郷土教育論的アプローチ(1) : 学力低下現象の検証必要性と学力向上への課題
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概要
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我が国では現行の学習指導要領のもとで育てることができる学力に対しての悲観的な見方が大勢を占めている。2004年末に示された二つの国際学力調査の結果はそれが杞憂でないことを裏付けるものとして受け止められた。折しも青少年の不可解な非行や陰湿ないじめに国民が心を痛めているところでもあり,数件の教師の不祥事とあいまって「教育」への失望ないしは無力感が一部に漂い始めていると言っても過言ではないだろう。現在は,我が国の児童生徒の学力低下が疑いようのない前提と位置づけられ,その原因はどこにあるのかという究明と,学力の復活さらには向上に向けての手だてがどうあるべきかが論じられ始めているところである。しかし,現在の我が国の児童生徒が学力低下の状況にあるという前提から原因の究明と対策の考察をおこなうのみでは十分ではないと思われる。まず現況の我が国の学力低下とはどのような様相であるのか,学力とはそもそもどのようなものであるのか,その向上に対してどのような取り組みが可能であるのか,などの点についての関心が国民に共有されるべきであろう。これらの諸点に関する見解の一致を見ることはないとしても,何をもって学力低下と断じうるのか,何をもって学力を構成する要素とするのか,学力のあり方と学力形成のプロセスにはどのような関わりがあるのか,などの諸局面に目を配った学力概念の再構築へのアプローチこそが,学力の向上という究極的目標の実現につながるものと考えるのである。本研究は学力を構成する諸要素を子どもの日常的な環境や授業実践の中から抽出する試みを通して,時代の状況に応じ,かつ児童生徒の優々の経験と将来像にも適合するような形で学力の概念を再構築し,それを学力の構造として明示することを最終的な目的とするものである。学力の概念に向けて,郷土教育の立場からのアプローチをおこなおうとする点では、戦後の学力論争の中で経験主義教育の立場からすでに提起され論議されている部分がある。しかし半世紀を経て,社会の条件,子どもの条件,教師の条件などの諸側面は変化している。改めて学力の概念と学力の構造を追究し,我が国の児童生徒の学力の現状を検証し,再論議されるべき今日的なテーマを提示することは,今後の学校教育の指針となる重要なテーマであると考えている。本稿では筆者の学力概念に対する問題意識と検討課題を論じることとしたい。
- 2005-09-30
著者
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