夏目漱石と儒学思想
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概要
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我が国の近代文学を代表する二大巨匠は、夏目漱石、森鴎外(森鴎外、夏目漱石)であることは、今さら言うまでもない。この二人には、前者が英文学者、後者が軍医でドイツ文学者、また五歳の年齢差があるが、文学はもとより、漢学の造詣の深さに対しても瞠目に値するものがある。漱石の作品には、英文学をはじめとする欧米の文学、哲学、美術のみならず、東洋の文学、哲学、芸術などの反映が見られる。特に中国哲学においては、儒学思想(儒家思想)、老荘思想(道家思想)、禅の思想が漱石の作品に大きく反映している。この点については、すでに先学によって論究されている。たとえば、儒学・老荘の思想については、漱石と荀子性悪説、老子に関するものとして、江藤淳「漱石と中国思想-『心』『道草』と荀子、老子」(雑誌『新潮』昭和五十三年四月号)、陽明学に関するものとして、佐古純一郎「夏目漱石と陽明学」(『夏目漱石論』昭和53年審美社)の名著がある。たしかに、この江藤・佐古両氏の論考については、何れも卓越せる著作である。漱石の小説『こころ』について、江藤氏は荀子性悪説に基づくものだとし、佐古氏は陽明学の心学に基づくものとしているが首肯できない。この点については、すでに論述しているのでここでは述べない。だからといって漱石の作品に、荀子や王陽明の影響が全くないというのではない。漱石の作品によっては、荀子や王陽明の影響を受けているものがあり、特に陽明学の影響は大きい。漱石の中国哲学、中国文学の造詣は、少年時代に学んだ漢学塾によるものである。その漢学塾は、陽明学者三島中洲の創立した二松学舎(現二松学舎大学)である。したがって漱石は、陽明学の影響を受けた。また中国哲学を代表する孔子や『論語』の影響も受けた。のみならず関わりの深い中国に対する観方については、紀行文、その他の作品で見ることができる。
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