乗数理論のミクロ的基礎について(<特集>ケインズ経済学の再検討)
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概要
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本稿では貨幣を保蔵手段とした世代重複モデル(OGモデル)と独占的競争均衡を用いて,動学的な乗数理論を構築した.従来のMankiw (1988), Startz (1989), Reinhorn (1998)らの乗数理論では増税が負の所得効果を通じて労働供給を増加させる効果が支配的であった.このため浪費的な財政政策は却って経済厚生を低下させるという結論が得られていた.モデルの動学化により,Mankiwらには存在しない二つの相乗効果が生まれ,浪費的であっても不完全雇用下の拡張的財政政策が経済厚生を改善するという命題を得た.二つの相乗効果とは,貨幣発行益による財政支出のファイナンスと貨幣の非中立性である.まず貨幣発行益によるファイナンスは,税負担なしに財政拡張が可能になり,経済厚生を低下させる経路が遮断される.さらに本稿モデルでは相対価格であるインフレ率は名目貨幣供給量から独立に決定され,現在の物価水準もそこから独立となる.したがって政府は実質貨幣残高をコントロールが可能で,貨幣は非中立的となり,財政拡張に伴う貨幣増は有効需要を刺激し,独占利潤の増加を通じて経済厚生を高めるのである.
- 2006-03-30
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