ソテツの新配糖体NEOCYCASIN類に関する研究
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概要
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1.日本産ソテツCycas revoluta Thunb.種子の未知配糖体の検索と同時に, 有毒配糖体cycasin(β-D-glucosyloxyazoxymethane)の大量調製を図つて抽出法に検討を加えた.ソテツ試料の稀酸処理によつて, ソテツ配糖体の組成に何らの影響を及ぼすことなく抽出操作を迅速に, かつ, 容易に行ない得ることを確かめて新しく抽出法を確立した.また, 関係諸装置, 特に濃縮装置を改良し, 高能率の大型連続式減圧濃縮装置を考案してソテツ試料の大量処理に応ずる体制を整えた.2.上記によつて得た抽出液を活性炭カラムクロマトグラフィーによつて精細に分別, 検索して一連の新配糖体群neocycasin類を検知し, さらに同ソテツの各部位やグアム島産ソテツCycas circinalis L.にも検討を加えた.検知されたneocycasin類のうち, 現在までに主要なる7種を単難して, それぞれneocycasin A, B, C, D, E, Fと命名した.なお, neocycasin Dはneocycasin Cの部分分解生成物として得られたものである.3.上記各neocycasin類のアグリコンは遊離状態においては不安定であつて, アグリコン自体として単離できないので, 構造の検討にあたつてはneocycasin類の分光学的諸性質や分解生成物などについて解析して構造を決定した.neocycasin類のアグリコンはいずれもcycasinと同じくhydroxyazoxymethaneであつて, このような脂肪族アゾオキシ化合物をアグリコンとする配糖体は, 天然界にはもちろん合成的にも, これらのソテツ配糖体の外に従来類例をみないものである.この特徴に基づいて, neocycasin類はcycasinおよび濠洲産ソテツMacrozamia属などの有毒配糖体macrozamin(β-primeverosyloxyazoxymethane)とともに総括して, アゾオキシ配糖体の総称のもとに配糖体の分類上1新区分を形成するものである.また, 糖成分と関連して, neocycasin類はmacrozaminをも含めてすべてβ-glycosylcycasinとして体系化できる.このようにneocycasin類はアグリコンに関してのみならず, 糖成分自体においても特徴あるものをもつている.neocycasin Bのgentiobioseは配糖体の糖成分としてよく知られているが, neocycasin A, C, D, F, Gのβ-1,3結合糖, すなわち, laminaribiose, laminaritriose, laminaritetraose, 6-O-β-laminaribiosylglucose, 3-O-β-gentiobiosylglucoseや, neocycasin Eのcellobioseは従来の天然配糖体の糖成分として例のないものである.4.Cycas revoluta Thunb.の種子から調製したエムルシンを用いて, neocycasin類の分解反応と, cycasinあるいはneocycasin Aを基質とする糖転移反応を検討した結果, cycasin, neocycasin A, B, Cの相互間の酵素的変換関係が明らかになつた.そして転移反応においてβ-1,3 glucosido結合が優先して顕著に生成されることを確かめて, ソテツ・エムルシンの特異性を推察した.このようなneocycasin Aあるいはneocycasin Cの特異的生成をも含めて, 新たに転移生成されるneocycasin類の量的順位は種子に存在するneocycasin類のパターンの特徴とも一致するものであり, neocycasin類の生合成機構の解明に1つの示唆を得た.5.ソテツの各部位や品種間における有毒性の相違, ソテツ配糖体の多様性などと関連して, Cycas revoluta Thunb.の各部位およびCycas circinalis L.種子についてアゾオキシ配糖体を分別定量した.その結果, 上記いずれの試料においても主要配糖体はcycasinであるが, 量的にかなりの相違があつて, 特にCycas circinalis L.の種子仁には1.3〜1.5%の高含量で存在し, Cycas revoluta Thunb.仁のそれの3〜5倍であり, 前者ソテツの強い毒性を裏付ける知見を得た.配糖体の他のものについては, Cycas revoluta Thunb.の全般にneocycasin Aの含量比が高くmacrozaminは微量であるが, 葉においてはmacrozaminがcycasinに次ぐ存在量を示している.一方, Cycas circinalis L.仁では量的にcycasinに次ぐものはneocycasin Bあるいはmacrozaminであつた.これらのソテツ試料について, さらにアゾオキシ配糖体を検索して単離を行ない.既知配糖体を同定, 確認した外, なお多数の未知のneocycasin類の存在を認めた.それらのうち, Cycas circinalis L.についての未知の2種はneocycasin FおよびGとしてはじめて単離されるに至つた.以上のようにして, アゾオキシ配糖体の多様性をさらに明らかにするとともに, それらのパターンはソテツの品種, 部位によつてそれぞれ特徴を有することを確かめて, 4.において得た結果から推察されるソテツの品種別あるいは各部位の酵素的糖転移特異性の問題と関連して興味ある知見を得た.
- 鹿児島大学の論文
- 1964-03-25