スーダンの住宅のパターン分析的評価に関する研究 : ケーススタディ:ハルツームの戸建て住宅平面型の評価と改良
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概要
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1.研究の背景と目的・方法 本研究は,スーダンの首都ハルツーム(約700万人)に近年数多く建設されている都市型戸建住宅(Fig.1,2A)を調査対象として,その型変化著しく多様な住宅プランについて,パターン図式を用いた類型化とゾーニング(男女生活領域の分離)による分析評価を加えて,イスラームの住様式により見合う住宅型を見出すことを目的としている。スーダンの都市型戸建住宅はイスラム圏の典型的な中庭型のコートハウスと異なり,前庭・裏庭型のコートハウス(平屋)である。(このタイプの住宅はエジプト南部,サウジアラビア,クエート等にも見られる)。首都ハルツームにはスーダン全土からの移住者も増え続けて,大量の住宅建設による都市のスプロールが深刻な問題となり,また,イスラームをメジャー文化とする多民族混住,近代化,西洋文化の移入などで住宅型が短期間で著しく変化し多様性を増している。この多様な住宅型の分析ツールとして,住宅の動線と室配置の特徴を捉えられる住宅平面パターンを用いる(Fig2A,2E)。筆者の一人黒澤が日本(首都圏,北海道)の戸建住宅の1階プランをパターン図式化した方法を発展させて,スーダンの戸建住宅の図式化では,新たに戸外空間(前庭,裏庭)を単位空間に取り入れてパターン図式化する。パターン図式で住宅プランを括って分類し,室配置や動線の比較検討から住宅型の型展開方向等を分析する。さらに,イスラームの住様式に特有な男・女(家族・来客)領域の分離・混在をパターン図式上の単位空間のゾーニングから割り出して,住様式により見合う住宅型を見出すことを試みる。住宅プラン(150サンプル)のパターン分析と住み方調査分析(130件)をつき合わせて考察する。2.住宅型のパターン図式に用いる基本空間単位 スーダンの戸建住宅を構成する基本空間は次のようになる。(1)前庭(Y1)と裏庭(Y2):前庭(Y1)は男性家族の接客(男性客)と団欒にも使われ,夏期の夜には「寝室」として使われる。裏庭(Y2)は女性家族の接客(女性客)と団欒にも使われる。(2)リビング(LA):主に日中だけ使われる。家族は夕方から夜は前庭,裏庭に出る。食事室として使われる。女性客をもてなす部屋ともなる。屋上に昇る階段はリビングにつく。(3)接客室(GA):男性客用接客室。男性の第2のリビングともなる。女性客のある時に男性家族はこの接客室や寝室を使う。一部を仕切って客用,家族用,メイド用寝室にも使う。(4)台所(K):女性が炊事,家事など多用途に使う。(5)サニタリー(S):洗面,洗濯,浴室,トイレ。(6)寝室(B):寝室の1つは男性,もう1つは女性の第2のリビングとしても使われ,個人のプライバシーには制約が多い。専用サニタリーがつくものもある。3.住宅型のパターン図式化とパターン分析・パターン図式(Fig.2E) スーダンの戸建住宅の室配置型を把握できる「隣接パターン」図式は次のように図式化できる(Fig.2E)。円環の中心にリビング(LA)を固定し,円環の真上に裏庭(Y2)を固定する。円環の中段・下段の左・右の4ヶ所に前庭(Y1),接客室(GA),台所(K),サニタリー(S)を並べる。円環上のこの4室(Y1,GA,K,S)の並び方のうち左右対称の並び方は片方だけにして全ての並び方を円環上に置く(室配置が左右(東西)対称の住宅型は1つのパターン図式に対応させる)。円環に寝室(B)を並べる前のこの「基本パターン」図式(Fig.3の左欄)は12タイプできるが,スーダンの住宅サンプルでは上記の円環上の4室(Y1,GA,K,S)の並び方で,前庭(Y1)と接客室(GA)とが隣り合わない並び方は皆無だったので基本パターンは6タイプとなった。「基本パターン図式」の円環上の5室(Y1,Y2,GA,K,S)の間に寝室(B)を置いて「隣接パターン」図式を完成させる(Fig.2E,Fig.3)。・パターン分類(Fig.3.4) スーダンの住宅サンプルでは,隣接パターンは異なっていても基本パターンが同じサンプルは室配置が比較的共通している(Fig.3)。また,住宅型には建設時期(1975-2003年)で大きな変化がある(Fig.4)。[1975-1984年]型は「台所(K)を含めた女性領域を男性接客室(GA)から離した女性家族-男性客分離型」が多く,このタイプはこの時期以後に激減する。[1985-1994年]型は「家族領域を1まとまりにして接客室(GA)から離した欧米型の近代アパート型」と呼べる型で,この時期だけに多い。[1995-2003年]型は,「女性家族-男性客分離型で,且つ接客室(GA)に台所(K)を隣接させた接客サービス重視型」が急増した。男性客用トイレ(GS)をもちサニタリー(S)が接客室(GA)と離れる室配置型が多い。・ゾーニング(Fig.5〜9),(Fig.10,13) 互いに訪問しあうことが多いスーダンの住宅において,女性が他者の視線から保護され,来客時にもプライバシーと快適性を保つには,(1)男性来客時の男性客領域「接客室(GA)-前庭(Y1)」と女性家族領域「リビング(LA)-裏庭(Y2)-台所(K)-サニタリー(S)」が混在せず,(2)女性来客時の女性客領域「リビング(LA)-裏庭(Y2)-サニタリー(S)」と男性家族領域「接客室(GA)-寝室(B)-前庭(Y1)」が混在しないゾーニング(領域構成)が必要となる(Fig5〜9)。スーダンの戸建住宅型(Fig.3)の中で,上記の2条件を満たす型と満たさぬ型は,その隣接パターン図式に上記の2条件に挙げられた領域(ゾーン)をゾーニングしてみると見分け易い(Fig.9,10)。このゾーニングは接客室(GA)に客用トイレ(GS)がある場合のゾーニングである。隣接パターン図式を用いたゾーニングは住宅型の改良に役立てられる(Fig.9,13)。4.まとめ 住宅型のパターン分析と住み方調査分析を踏まえて,スーダンの都市型戸建住宅に満たされるべき主要な室配置・動線条件を挙げる。これらの条件を満たす住宅型はパターン図式のゾーニングから導かれる(Fig.9,13)。(1)女性家族と女性客が前庭(Y1)を通らず,裏庭(Y2)を通ってリビング(LA)にアクセスできる第2の出入口をもつこと(Fig.9,13:ENT2)。(2)男性家族の寝室(B)は,女性の来客があるリビング(LA)を通らずに前庭(Y1),接客室(GA)にアクセスできる動線をもつこと。(Fig.9,13:Bm-Y1-GA)(3)女性が来客しても男性家族がリビング(LA)を使うことができるように,女性接客スペースをもつことが望ましい。本論ではリビング(LA)に女性接客コーナーをもつコンパクトプランを扱った(Fig.9,13)。(4)男性の接客室(GA)はリビング(LA)を通らず,前庭(Y1)から直接アクセスできること。(Fig.9,13:Y1-GA)(5)接客室(GA)と男性家族の寝室(B)からリビング(LA)を通らずにアクセスできる客兼用トイレ(GS)をもつこと。(Fig.9,13:GS)スーダンの首都ハルツームの住宅型の顕著な型変化は上記の室配置・動線条件を満たす方向に展開していると見做せるが,今後は体系的なパターン分析から,多様な住様式にきめ細かに対応する住宅体系を求めることが課題である。
- 2005-12-30
著者
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