90年代国際経済の長期停滞事例に見られる、「政策危機」の一考察 : 危機管理の視点による「アジア通貨危機」検証
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
90年代には、これまで順調に経済成長を遂げてきた東アジア諸国(NIEs、ASEAN)で、通貨金融危機が生じ、経済閉塞に陥った。こうした深刻かつ長期的な危機には、(1)マクロ経済上の様々な不均衡の存在や、グローバルマネーフローの急激な変化等強い外的ショックが原因で発生した『構造危機』の側面に加えて、(2)構造危機への対応、危機管理策自体が引き起こした『政策危機』の要素が抜き難く存在していると考えられる。本稿では『政策危機』を「政府(当事国、国際機関を含める)による危機対応政策から直接・間接派生した新たな失敗や危機」と位置付けている。そして1997年アジア通貨危機に瀕したインドネシア・マレーシア・韓国を対象に、従来の視点である『構造危機』に、『政策危機』を座標軸として加えて、分析を試みた。即ちインドネシアでは、『構造危機』発生後、IMFとインドネシア政府の経済政策基本理念のミスマッチから、深刻な『政策危機』が発生し、『構造危機』との合併症が昂進したものと見る。これに対しマレーシア・韓国は、『政策危機』を防止・克服し、経済再生にも早期に成功した。もっともマレーシア・韓国両国の採用した政策・政策理念は大きく異なり、グローバル・スタンダード的なIMF政策へのスタンスにも差があるが、両者共、(1)グローバル経済下での「市場」の重要性・圧力の強さを十分踏まえて、(2)市場に委ねても即時的解決が困難な分野や、市場の失敗が生じた分野に対しては、政府の強い介入を躊躇なく実施し、(3)強力なリーダーシップにより政策を軌道修正しつつも一貫させたことが、政権のガバナンス維持と市場による信認の回復を果たし、『政策危機』の発生・拡大を防止克服し得たといえよう。
著者
関連論文
- 90年代国際経済の長期停滞事例に見られる、「政策危機」の一考察 : 危機管理の視点による「アジア通貨危機」検証
- 政策危機と危機管理 : 英国Consensus Politics下の政策危機とサッチャー改革
- 日本のヒューマン・キャピタル・クライシス : 先進諸国の『人的資本力』問題に関するノート No.1
- 「国際経済・金融」危機への対応と「政策危機」 : 1970年代以降、サブプライム金融危機に至る「政策危機」の事例研究 No1.
- 「大学全入時代」が求める基礎力教育と、金融分野における新たな試み : 「金融基礎力プログラム」展開による、初学者金融教育の実践
- 21世紀アメリカ経済論(No 1) : 転機を迎えた米国経済社会と、オバマ改革