穿孔性二枚貝ニオガイの幼生と初期稚貝における蝶番の発達と機能形態
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概要
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ニオガイBarnea manilensisのD型幼生から初期稚貝, 特に変態過程における殻および蝶番の形態的特徴についてSEMと光学顕微鏡を用いて観察した。ニオガイは, 殻頂と腹縁を通る軸(背腹軸)について殻の前腹縁を開口することができ, この運動によって実質的に穿孔する。この背腹軸運動は, 幼生の時や他の二枚貝では見られず(長軸について腹側を開口するのみ), 穿孔生活をするニオガイ類(Pholadacea)に特有のものである。蝶番は, 背腹軸運動の支点として特殊化し, ニオガイではノブ状に発達した背関節突起(dorsal condyle)で両殻が点状に接する。本研究では, このような蝶番の発達過程について, その形態と, 背腹軸運動の支点としての働きとの関係を考察した。ニオガイは, 変態開始後すぐに背腹軸運動を始める。しかしながら, 蝶番は, 第1靱帯や弾帯受などの祖先的な形質が先に発達し, ノブ状の背関節突起は初期稚貝の成長とともに後から形成される。背腹軸運動の支点としては, 両殻をつなぐ第1靱帯が最初に機能する。また, 左殻で突出した弾帯受は, 蝶番で左殻を右殻の内側に位置づける。これは, 初期稚貝において, 背腹軸運動による前側の開口を大きくするために, 後側の左殻を右殻の内側に潜り込ませる動きに適合する。ところが, このような第1靱帯や左弾帯受は成長とともに急速に退化し, ノブ状の背関節突起が発達するようになる。その結果, 背腹軸運動の支点の位置は, 祖先的な第1靱帯から, 特殊化した背関節突起へと二次的に変わった。
- 日本貝類学会の論文
- 1998-10-31
著者
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