現在バイアスの存在と異時点間のセルフ・コントロール問題を扱うモデルの実験による検証
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概要
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1990年代末以降、個人の動学的な意思決定問題として、現在バイアスの問題とセルフ・コントロール問題が再浮上している。セルフ・コントロールの問題は、動学的意思決定問題では、時間選好率のアノマリーの一つであるhyperbolic preferenceとして捉えられることが多い。最近では、hyperbolic preferenceがあると仮定した場合のマクロ的な経済分析は、不良債権問題ヤプロジェクトの失敗など枚挙に暇がない。Hyperbolic preferenceがあるときの異時点間の効用関数は、時間選好率ρだけでは説明することはできない。そこでLaibson (1999)は、hyperbolic preferenceの本質的な要素のみを現在バイアスβとして取り出し、(ρ、β)の枠組みで異時点の問題を定式化した。さらにTed O'Donoghue and Mattew Rabin (1999)は、その後この手法を用いて、人々を3つのタイプにわけて、ビヘイビアの違いを分析した。第一は、現在バイアスがなく、したがって明日と今日の違いは時間選好率だけであるようなTime-Consistent (TC)な個人である。第2は、現在バイアスがあるが、賢者個人(sophisticants)であり、第3が愚者(naifes)である。賢者は、β<1である自分を知っているのに対して、愚者は、自分のβは1であり、自分はTCであると思い込んでいる(β=1)が、現実にはβ<1である点が特性を形成している。彼らの問題への対処は、今すぐ犠牲がかかる場合には、賢者(sophisticants)であれば、自分の動学的問題をバックワードに解いて問題を処理することができる。しかし現在バイアスがあり、かつ愚者(naifes)の場合には、最終期の前の期に初めてβ<1であることに気がつくために、最も大きな犠牲を払うこともありうる。具体的に問題を解いてみると、(ρ、β)の枠組みは問題を複雑にしているように見えるが、実際には、問題を現在と次の期の問題に限定していることがわかる。つまり、いま自分がいる時点で遠い将来までのことを考えるというより、次の期と比べて今期の自分はどうであるかを考えることに重点を置くのである。現在バイアスを克服するためのセルフ・コントロールの問題のうち、いかにして問題を克服するか、ということはO'Donoghue and Rabin (1999)のモデルでは扱われていない。セルフコントロール問題を正面から扱い、定義しているのは、Gul and Pesendorfer (2000)である。Gul and Pesendorfer (2000)では、オプションの存在がある主体の効用を下げるようなとき、セルフ・コントロール問題がある、と定義されている。このモデルでは、セルフコントロールに失敗したときの不効用が明示的に効用関数に取り入れられている。ある主体がセルフ・コントロール問題を感じれば、それを克服するためにプレコミットメントを手段として用いる場合もある。本稿では、以上のサーベイを踏まえて実験を組み立て、セルフ・コントロール問題を感じている個人と感じていない個人の行動を計測した。その実験結果の分析により、(β、ρ)アプローチとGul and Pesendorfer (2000)流のセルフ・コントロール問題の叙述は異なってみえるが、本質は切り離して考えることのできない同質的なものであることがわかった。また、βが非常に小さいが自分でそれを分かっている者は、結局ビヘイビアはnaifesと同じになることから、sophistecateであることの意味について再確認する結果を得た。
- 敬愛大学・千葉敬愛短期大学の論文
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