歯周病原細菌Treponema medium由来複合糖質の化学構造と免疫生物学的作用
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
らせん状細菌である口腔トレポネーマは,歯周病患者の歯肉縁下プラークより高頻度に分離されるが,その病態形成における役割についてはほとんど明らかにされていない.本稿において,これら口腔トレポネーマの菌体表層成分の構造と機能についてその一端を明らかにした.すなわち,歯周病患者における歯肉縁下プラーク中の口腔スピロヘータTreponema denticola, Treponema vincentiiおよびTreponema mediumの分布について,各菌特異的な16S rRNAプライマーを用いたPCR法により検討した.その結果,これら口腔トレポネーマの検出率は, T. denticola, 68.0%; T. vincentii, 36.0%; T. medium, 48.0%であり,健常者と比較して歯周病患者では検出率が高くなる傾向がみられた.なかでも,T. denticolaおよびT. mediumは,歯周ポケットが深くなるとともに検出率も上昇した.ついでこれら口腔トレポネーマのなかで,T. medium ATCC 700293^T菌体より複合糖質画分(Tm-Gp)を抽出・精製し,その化学構造と免疫生物学的作用について検討した.Tm-Gpは複合糖質(Tm-GC)と多糖部分(Tm-PS)から構成され,Tm-GCはTm-PSにホスファチジルグリセロールが結合したものであった.また,Tm-PSは4糖2アミノ酸を繰り返し構造とする多糖で,その化学構造は[→4)β-D-GlcpNAc3NAcA (1→4)β-D-ManpNAc3NAOrn (1→3)β-D-GlcpNAc (1→3)α-D-Fucp4NAsp (1→]であり,グラム陰性細菌由来のリポ多糖(LPS)やグラム陽性菌由来のリポタイコ酸とは異なる構造であった.Tm-Gpは,LPS様の内毒素活性はみられなかったが,LPSによるヒト単球細胞株Mono Mac 6の活性化を濃度依存的に抑制した.また,Tm-Gpは,LPSやその活性中心であるリピドAによるマウスToll様受容体(TLR) 4/MD-2強制発現マウスB細胞株Ba/F3のNF-_κB活性を抑制したが,Taxolによる同活性の抑制はみられなかった.さらにTm-Gpの抑制作用は細胞培養系における血清無添加の条件下ではみられず,血清中に存在するCD14やLPS結合タンパク(LBP)の添加により示された.また,Tm-Gpは,固相化CD14あるいはLBPへのLPS結合を阻害した.これら抑制作用は,T. medium複合糖質中のホスファチジルグリセロールによって担われていることを明らかにした.以上の結果から,歯周病の病態が悪化するとともに増加する口腔トレポネーマ,なかでもT. medium由来複合糖質は,宿主の自然免疫応答における抑制因子として作用し,歯周病患者の病巣局所における慢性化に関与することが考えられる.
- 2004-11-20
著者
-
小川 知彦
朝日大学歯学部口腔細菌学講座
-
小川 知彦
朝日大・歯・口腔微生物
-
小川 知彦
朝日大学歯学部口腔感染医療学講座口腔微生物学分野
-
朝井 康行
朝日大学歯学部口腔細菌学講座
-
朝井 康行
朝日大・歯・口腔微生物
-
朝井 康行
朝日大学歯学部口腔感染医療学講座口腔微生物学分野
関連論文
- Porphyromonas gingivalis LPS による CD14^+CD16^+樹状細胞の誘導
- Porphyromonas gingivalis LPSによるトレランスの誘導
- Porphyromonas gingivalis LPS刺激によるヒト単球トレランス誘導におけるIL-10の役割
- 28 Treponema medium由来菌体表層複合糖質の化学構造とその免疫生物学的作用(口頭発表の部)
- Treponema medium 糖脂質によるActinobacillus actinomycetemcomitans LPS刺激ヒト歯肉線維芽細胞の活性化に対する抑制効果
- Prevotella intermedia由来リピドAの化学構造と免疫生物活性
- モノサッカリド型リピドAによるTLR4を介する細胞の活性化
- Porphyromonas gingivalis線毛に結合するTreponema denticola由来細胞表層タンパク質
- 病原因子関連分子パターン(PAMPs)の認識における口腔スピロヘータ由来糖脂質の抑制機構
- 2.Prevotella intermedia由来複合糖質の構造解析および免疫分子生物学的性状(第146回岐阜歯科学会例会)
- 口腔スピロヘータTreponema medium由来複合糖質の構造および免疫生物学的作用
- Porphyromonas gingivalisリピドA分子による細胞活性化機構の検討
- Treponema mediumの鞭毛遺伝子クローニング
- 口腔スピロヘータの走化性
- 歯周病原細菌Treponema medium由来複合糖質の化学構造と免疫生物学的作用
- 微生物由来リポペプチドとリピドAの歯肉線維芽細胞およびマクロファージ活性化能の比較
- 黒色色素産生菌表層成分による歯肉上皮細胞のMMP-9の産生の増強
- Porphyromonas gingivalis LPSのLPS低応答性マウスのB細胞活性化機構の解析
- 合成リポペプチドと合成lipid Aによる歯肉線維芽細胞およびマクロファージ活性化
- 1.Porphyromonas gingivalis由来Pg-ll fim遺伝子の解析(一般口演,第148回岐阜歯科学会例会)
- 3.定量的PCR法による患者プラークからの口腔トレポネーマ検出(第146回岐阜歯科学会例会)
- リアルタイムPCR法による口腔トレポネーマの定量的検出
- ヒト歯肉上皮細胞のPorphyromonas gingivalis線毛に対する応答性
- ヒト表皮角化細胞の外因性および内因性因子による調節
- 歯周病原細菌由来トリアシルリポペプチド類縁化合物の細胞認識活性化機構
- Serratia marcescens 由来リピドAの化学構造ならびに細胞認識活性化機構
- リピドAによるヒト骨芽細胞様細胞の破骨細胞形成促進作用
- デキストラン資化性乳酸桿菌の抗腫瘍作用
- デキストラン資化性Lactobacillus casei subsp.caseiの経口的免疫増強作用
- Porphyromonas gingivalis由来Pg-II線毛の遺伝子解析
- Treponema mediumの生化学的および系統解析の調査(発表論文抄録(2004))
- Fusobacterium nucleatum 由来リピドAの化学構造ならびに細胞認識活性化機構
- 歯周病原細菌由来菌体表層成分によるヒト歯肉線維芽細胞活性化に対するTreponema medium複合糖質の抑制作用
- 中型口腔トレポネーマの病原因子
- 細菌線毛ならびに同部分ペプチドによるToll-like receptor2を介するヒト歯肉上皮細胞の活性化
- 細菌線毛ならびに同部分ペプチドによるToll-like receptor2を介するヒト歯肉上皮細胞の活性化
- Bacteroides 類縁菌LPSの化学構造と免疫生物学的活性 : Porphyromonas gingivalis LPS 研究を中心に
- P1-12 ___- ___-線毛蛋白抗原の経口投与によるマウスの全身的ならびに局所的免疫応答
- 口腔トレポネーマによるヒト歯肉上皮細胞の活性化およびアポトーシス誘導
- ヒト歯肉上皮細胞に対する口腔トレポネーマの感染機構
- P. gingivalis菌体表層成分によるヒト歯肉上皮細胞の活性化
- P. gingivalis LPS によるヒト歯肉上皮細胞からのIL-8産生誘導
- Porphyromonas gingivalis LPS によるヒト単球のトレランスの誘導
- 生体の細菌認識と応答性-はじめに-
- 口腔病原性細菌に対するシソ種子由来の抗菌活性成分
- C3H/HeJマウスB細胞活性化におけるPorphyromonas gingivalis LPS認識機構の解析
- Porphyromonas gingivalis線毛蛋白質の部分合成ペプチドの免疫生物学的活性(黒屋奨学賞受賞論文)
- 若年層にみられる重度歯周炎の病理病態解析 : II.末梢血好中球および単球遊走能の検討
- 細菌細胞表層構築成分ならびに関連物質のヒト単球に対する遊走刺激作用
- 内毒素性致死活性におけるIL-1βの役割
- 菌体表層成分によるTLRノックアウトマウス由来歯肉線維芽細胞の反応性
- P. gingivalis合成リピドAによるC3H/HeJマウス活性化の検討
- マイコプラズマ由来リポペプチドと 1ipid A の生物活性の比較
- Porphyromonas gingivalis の病原因子
- BIO R&D デキストラン資化性乳酸桿菌による経口的免疫増強作用
- 細菌リピドA・線毛蛋白の生体認識機構
- LPSを認識するTLR (特集 Toll-like receptorの基礎と臨床)
- 歯周病原性細菌由来LPSによるヒト樹状細胞の活性化機構の検討
- 細胞内情報伝達系の調節による内毒素性致死活性の抑制
- 細胞内情報伝達系の調節による内毒素性致死活性の抑制