児童虐待問題に関する一考察 (1) : 虐待概念の定義
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
以上, 主としてアメリカ合衆国とわが国における代表的な定義を紹介しながら, その特徴を検討してみたが, 概して欧米の定義では比較的詳しくまとめられているのに, わが国ではほとんど見向きもされないテーマとして, 社会福祉的アプローチにおける児童虐待の定義があることを指摘しておかなければならない。バレンタインとアカッフは, 前述のように, 法律的観点, 医療的観点に加えてソーシャルワーク的観点からの定義に触れているが, この社会福祉的アプローチには, 主に四点からなる特徴がある。すなわち, 1) ソーシャルワークによる介入は有益なものと考えられること。2) ソーシャルワークは, 社会問題に対して「環境のもとにおける個人」を扱うようなアプローチの仕方をすること。3) ソーシャルワークは, 社会の付託に応え得るものでなくてはならないこと。4) ソーシャルワーカーは, 児童保護が充分になされなかった結果に対し, 情緒的, 心理的発展をうながすという側面から問題解決に貢献すると考えている。このように, 社会福祉的アプローチの場合, 問題を「社会的」な拡がりのなかで把え, 「環境のもとにおける個人」を対象とすると述べているように, 家族, 集団, 学校, 地域社会を含む児童の生活環境全体との関わりのなかに児童を位置づけ, その働きかけも医療や法律的アプローチが, 問題を治療場面や法律関係に集約して捉える傾向があるのに対し, 多方向的な視点をもっている。次に, わが国の定義が虐待の事実を正確に把握するという観点からまとめ (それはケンプの場合も同様), いわば実態概念としての性格が強いのに対し, 欧米ではそれに加えて, 問題の予防あるいは解決のための方法までも含めた機能概念としての性格をもっていることに注目したい。つまり, ソーシャルワーク的観点からの概念整理は, 単に虐待の事実と因果関係だけに終始するのではなく, 問題解決のための方法を含んだ力動的な概念として考えられている。従って, そこでは「問題解決」という目標を設定し, 次にそこに結びつく事実と方法の設定が, 作業としては必要になってくる。ファラー (L. C. Faller) によれば, そうした状況にある専門ソーシャルワーカーには, 少なくとも四つの特徴を備えた定義が必要であると考えられ, 次のようにまとめている。1) 何らかの意味で明確になった両親の行動は, 怠慢にもとずく行為であれ, 強制にもとずく行為であれ, 身体的にしろ, 精神的にしろ, その児童に向けられる。2)身体的な葛藤, あるいはその状況, 心理的な損傷, あるいはその両方について, 児童に即して証明できる損傷である。3) 両親の行動と, 児童に与える危害の間にある因果関係を明らかにする。4) ソーシャルワーカーは, 虐待に正当な介入と認められれば認められるほど, 重要な役割を果していると感じられることが必要である。これらの条件は, いずれも児童と両親 (虐待者) の関係の実態を把握し, 改善のための具体的な方法を見いだす努力の必要性に関係したものであるが, トータルには, ファラーが「家族の逆機能に貢献する状況の改善とシステムの統一に焦点を合わせている」とまとめているように, 法律や医療の場合と異なって, 家族問題 (family problem) として位置づけ, 家族関係の改善方法を採る方向に意図的に運営しようとする。そのために, 「ソーシャルワークは個人や家族にとって有害な社会的価値や状況の変更を代弁する責任を持っている」という倫理綱領も充分に考慮しなければならない。以上述べたところをまとめるならば, 「定義の拡張は, 虐待による損傷それ自体においてと同様に, 児童と両親の行動, そして性的虐待と同様に, 情緒的な虐待や放置を合体することに焦点を合わせる」ところに結論が置かれるのではなかろうか。
- 1991-03-31
著者
関連論文
- 児童虐待に関する保育者の認識 : 幼稚園教諭および保母を対象にした調査の結果をもとに
- 保育系学生における障害のある子の「幸せ」に関する認識
- 保育従事者の専門性と職場適応
- P59 幼児期から児童期にわたる子どもの社会認識の発達過程 : 子どもの自己認識を中心として(ポスター発表I)
- 076 幼児期から児童期にわたる子どもの社会認識の発達過程
- 095 子どもの社会認識の発達過程 : 保・幼・小関連をふまえて
- P36 童話や昔話が身近な存在でなくなった現代の子ども達 II : 母親の熟知度、お話を聞いた経験、初めて出会った童話・昔話
- P35 童話や昔話が身近な存在でなくなった現代の子ども達 I : 家庭における本やビデオの所有率
- 105 子どもの社会認識の発達過程 II : 保・幼・小関連をふまえて
- 子どもの社会認識の発達過程 I : 保・幼・小関連をふまえて
- 080 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程-(その11-2)
- 079 社会性の育成における幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程-(その11-1)
- 226 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程(その10-2)
- 225 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程(その10-1)
- 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程(その9-2)
- 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程(その9-1)
- 難聴児・者に関する社会一般の認識と啓発活動の実践
- 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程 (その8-2)
- 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程 (その8-1)
- 視覚障害者の能力を誇張した***映画が視覚障害者の持つ能力の評価に与える影響
- 保育系学生における盲学校紹介ビデオによる盲人能力観変容の効果
- 171 小学校入試模擬テストを受験する子供の実態と母親の意識II
- 182 保育者養成校における難聴理解のための啓蒙活動参加が聴覚障害者に対する態度変容に及ぼす効果
- 170 小学校入試模擬テストを受験する子供の実態と母親の意識I
- 児童虐待問題に関する一考察 (2) : 児童虐待の全体像
- 329 保育系学生における盲学校紹介ビデオによる盲人能力観変容の効果
- 051 視覚障害児のための絵本作成の実践(2) : 弱視児のための「拡大絵本」
- 児童虐待問題に関する一考察 (1) : 虐待概念の定義
- 014 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程(その7)
- 366 保育系学生における障害に関連する用語の熟知性
- 268 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程(その8-2)(口頭発表II,保幼小連関)
- 267 社会性の育成に於ける幼・小の関連教育 : 社会認識の成立過程(その8-1)(口頭発表II,保幼小連関)
- P75 保育系学生における障害のある子の「幸せ」に関する認識(ポスターセッションII)