中英語ロマンス『ゴウサー卿』における(反)キリストのイメージ : 経外典福音書の影響再考(文学編)
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概要
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中英語尾韻ロマンス『ゴウサー卿』は中世ヨーロッパにおいて人気を博した「悪魔ロバート」伝説の一つであり、後に改心する悪魔の申し子の生涯を描く。かつてM. B.オーグルという研究者はこのロマンスの冒頭に経外典福音書の影響が見られることを指摘した。この説は学界に受け入れられているとはいいがたいが、テクストの詳細な検討ならびに中世ヨーロッパにおいて聖家族とりわけ聖母子崇敬を題材とした伝説・視覚芸術が大いにもてはやされたという事実を踏まえると、経外典のこの作品への影響は、むしろオーグルが説く以上に顕著なのではないかと考えられる。その影響は、例えば、経外典でマリアの両親とされるヨアキムとアンナにまつわるエピソード、マリアヘの受胎告知、幼児イエスに授乳する聖母などの「パロディー」という形で現れている。ゴウサーは経外典に描かれる少年期のイエスを奇妙に髣髴させる「反キリスト」として生まれ、長じては結局、その憎むべきイエスに倣い、聖人として生涯を終えるのである。
- 1998-09-30
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