居住者の評価に基づくインドネシア,クドゥスの歴史的地区の路地・共用通路の将来展望
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概要
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はじめに インドネシア、クドゥス市の旧市街地中心部に位置する歴史的地区は、平屋建ての伝統的木造家屋(以後WTと呼ぶ)と様々な形態の煉瓦造住宅(以後nonWTと呼ぶ)によって構成される。歴史的地区の住宅へのアクセス網は、地区中央部で十文字に交差する主要道路から路地が分岐し、これに住宅敷地内の共用通路がつながるという構成をとる。調査対象地区では、現在WTが全体の19%を占めており、また、nonWTのほとんどは南面し、住宅の庭を共用通路とするなど伝統的な空間構成をもっている。共用通路はジャワ島の他の地域における伝統的住宅群にも見られる顕著な特徴である。調査対象地で、このような共用通路のある敷地は全体の41%であった。研究の目的と方法 本研究の目的は、路地・共用通路から成る伝統的アクセス空間の実態、特質と変容傾向について、居住者の評価・意向調査を通じて明らかにすることによって、歴史的地区の将来展望を検討することにある。ランダムに選んだ344の住宅の現地調査と居住者への聴取調査を1999年に行った。分析は、共用通路のある開放的敷地とそうではない閉鎖的敷地の二つのタイプ、およびWTとnonWTの二つの住居形式に着目して行なった。1.伝統的な路地の特徴(1)1911年の地図と現在の地図を照合することによって、土地の私有化の結果、路地形成の状況が明らかになった。1911年時点の地図では多くの土地が村所有となっており、数本の路地の存在が示されている。村所有の土地にも多くの家屋が存在し、路地や共用通路で結ばれていたものと考えられる。路地と共用通路から成る不規則で複雑なアクセス網は、元来、村所有の土地に家屋を設けることによって形成されてきたと考えられる。(2)路地の多くは南北もしくは東西方向に通っており、多くは袋小路のように見えるが、共用通路と連結している。家屋のほとんどは南面しており(WTの98%, non WTの84%)、共用通路は一般に東西向きである。路地は境界が物理的に明白である。普通の路地は1.75〜2.5mの幅で、狭いものは0.9〜1.5m、非常に狭いものは0.9m未満である。境界の構造と材料は、家屋の壁、庭のフェンスや生垣などである。共用通路の幅は明確でないが、樹木や潅木が境界を示し、幅は約2.0〜2.5mである。井戸と風呂場は母屋から離れて前庭にあり、共用通路を隔てたところに位置する(全体の68%)ため、住人は他人も頻繁に通る通路を日に何度も横切らなければならない。2.実態に対する居住者の評価 (1)344人の回答者に所有権と所有境界の状態について質問した。その結果すべての共有通路は私有であったが、路地の所有は36%が元々公共のもの、24%が私有から公共に変わったもの、40%が私有であった。このことは路地の延伸が必ずしも土地所有の変化をもたらすものではないことを示している。所有境界はWTグループ、閉鎖的敷地グループの過半が高い壁やフェンスで(WTの56%,閉鎖的的敷地の58%)、開放的敷地グループでは平均的で目立つものはなかった。しっかりした安全な境界はWTグループに重要視されていたが、開放的敷地グループでは重要視されていなかった。開放的敷地グループでは境界の状態よりも視線の持つ役割が重視されているものと考えられる。(2)路地と共用通路での活動の実態はWTとnonWT、いずれも同じであったが、開放的敷地と、閉鎖的敷地グループの間では異なっていた。活動は家屋の建築様式ではなく空間構成に影響されていた。利用機会は主に通学、通勤、祈りに行く時であった(平均72%)。このことは路地と共用通路での公共的な活動は特定の時間に行われることを示すと同時に、共用通路では公共的な活動と私的な活動が対立せずに調和して行われていることを示している。路地の管理については、一般に、共同責任として自分たちの生活環境を共同で世話すべきであると、住民によって認識されている。(3)快適・便利さに関連して、敷地規模の適切性と安全性において開放的敷地と閉鎖的敷地グループの両方で最も高かった(平均で45%)。敷地規模の適切性はnonWTグループで最も高く(45%)、安全性はWTグループで最も高かった(53%)。静けさ、日陰、近道は全てのグループで比較的高い傾向を示した(平均35%)。このことは居住者のほとんどが様々な快適さ・便利さ経験していることを示している,快適でない点・不便さについては全てのグループが同じ傾向を示し、比較的低かった(平均30%未満)。これは居住者のほとんどが快適でないこと、不便なことを経験していないことを示している。好みでは、どのグループでも、「好き」と「どちらでもない」の回答が同程度であった(平均45%)。彼らの多くは路地や共用通路を受け入れており、救急車の接近の難しさや生産原料の搬入の難しさ等でのほんの少数の点しか問題を感じていないと考えられる。3.居住者の変更への志向 (1)過去において、路地と共用通路の変更は、空間構成、形態的変化、緑の付加を含んでいた(25%以上)。将来の変更は主に形態的変化と緑の付加を主になるものと思われる。このことは過去90年間に起きたと同じようなアクセス網の形成プロセスが、部分的にまだ起こりつつあることを示している。その結果空間構成も変化しうることになる.路地と共用通路の変化への意向はWTとnonWTグループで同じ傾向を見せたが、開放的敷地グループは変更への意向が全般的に高く、閉鎖的敷地グループでは共用通路の舗装への意向が高かった。これは開放的敷地グループが地区環境に対して関心が高いことを反映しているもとた考えられる。(2)242人の回答者は全く空間構成の変化を望まず、ほとんどが不必要と考えていた(55%)。これは居住者が現状を受け入れていることを示している。またこのことは、自分の都合で空間構成を変化させることが実際には不可能であることを気付いているともいえる。変更は清掃、石灰塗料の塗装、フェンスの修理などの管理や、モルタルやコンクリート舗装による美化や、照明やサインの設置、住宅の前庭の植栽に限られていた。4.結論 狭い路地は非常事態には救急車等が近づき難いと考えられるかもしれないが、居住者はそこに多くの利点や一種の安全性を見出していたしていた。また、共用通路の曖昧な性質は、一般には受け入れ難いかもしれないが、居住者には快適な環境を提供していることが明らかになった。居住者には路地と共用通路の空間構成を保存したいとする意向があり、そうした基本的な空間構成は維持される傾向にある。このような狭い路地と共用通路はアクセスの空間としてのみならず、公用空地として伝統的な環境をシンボライズする近隣の交流の場としても保全されなければならないと考える。また、この空間構成の形成のプロセスから、敷地の分割やアクセスの形成を生じさせることによって、新たな空間的特徴をもった住宅地計画の将来的手法の可能性を学ぶことができる。
- 社団法人日本建築学会の論文
- 2001-07-30
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