植物・菌類に普遍的な Vacuole 研究の進歩を阻害した背景とその現状
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概要
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植物・菌類に普遍的な vacuole の記載には, 他の研究目的のために, 補足的な形で観察されたものが多い. しかし今後は vacuole 単離法の進歩によって, 細胞学の重要な分野になるであろう. Vacuole は極めて多くの機能を果しているという点で, 他の細胞器官と異なった特徴を持っている. そのため機能を網羅的にまとめたものがあまりにも少い. その原因として比較的長期にわたり, vacuole 研究の進歩を, 阻害して来た問題の一部を考察した. 用語 "vacuole" の放慢な使用により, 植物・菌類に普遍的な1つの特徴である大型の vacuole は, 他の生体膜との区別が不明瞭であった. 中性赤染色性・vacuome 説・等で見られた拡大解釈による混乱を, 現在でも "vacuole はリソソームである" という形で再び繰返そうとしている. 情報処理のため, 用語の明確な設定が必要である. De Vries は vacuole の膜の部分だけを, 細胞器官として切り離し, Tonoplast と命名した. しかし彼の考えたような細胞器官として考えると, それは機能単位であるから, vacuole 膜と内液は一体のものと考えるべきである. そのための植物・菌類の vacuole に関連する用語とその範疇は, 次のように規定するのが望ましいと考える. ドフリース膜 (De Vries membrane)…vacuole の膜部分のみ, あるいはその一部分 (生体膜として). 液胞体 (Vacuoplast)…閉鎖空間を形成する個々の vacuole (内液を含めて一個の細胞器官と考える). 液胞装置 (vacuole apparatus)…一個の原形質塊内に二個以上の vacuole を含む場合 (細胞器官系). 巨大ではあるが構造的特徴が少く, 機能的にも漠然としていたため, 研究者の注意を惹きにくかったと思われる. しかし一部の顕著な特徴の認められる vacuole については, 着色・運動・含有粒子に着目して, 多くの研究が進められた. Vacuole の形態的変動は特徴のないまゝに多岐にわたっている. その変動自身を対象とした貴重な報告は散発的である. その機構も原因も, 十分納得のいく調査のなされたものは少い. 細胞筋骨系とアクチン調節タンパク質による, vacuole 膜変形機構の研究と, それを誘導する生理条件の調査が必要である. 巨大な vacuole の形態的変動は, vacuole の分布の問題であるとも考えるべきである. 代謝活性の大・小, 有益・無益という視点からではなく, 機能分担の立場で検討すべきである. 既述の如く Tonoplast の発見命名により, vacuole から膜の部分だけが取除かれた. その結果内部の液体だけが用語 "vacuole" に残されて, 後形質に分属させられた. 後形質と見做された vacuole 内液は, 代謝活性を示さぬものとして, 生命現象研究の対象から疎外された. 近年の研究では vacuole 内液自身にも, 各種の酵素が含まれていることが判明した. Vacuole 内液にも生命現象が推測される. Vacuole 内液と用語 "細胞液" の範疇には, あまり差がないと考えられた時代があった. また組織からの搾り汁を細胞液として細胞学に持ち込んだ時期もあった. しかし現在では "vacuole 内液を細胞液と呼ぶ" という説明は許されないはずである. vacuole 単離定量法の改善は, 植物・菌類の細胞学に, 大きく寄与するものと期待される.
- 中京大学の論文
- 1985-03-20
著者
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