「ダゲレオタイプとジオラマ」手法の歴史とその実際 : 「ダゲレオタイプ教本」解説と翻訳 (下)
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概要
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上記のように, すべてのアスファルト, 樹脂, 精油の残漬は, 光によって同じように敏感に変化させることができる。 このためには, 極く薄い膜でなければならないし, そのための溶剤も見付ける必要がある。 この溶剤には, 石油, いろんな精油, アルコール, エステル, さらに熱も使える。 Niepce 氏はアスファルトを付けた板を溶剤の中に浸した。 しかし, この方法は暗箱写生器の中で板が受けるような弱い光線に対しては適当でない。 いつも溶剤が強すぎたり, 弱すぎたりする。 前者では全部溶けてしまうし, 後者では画像がほとんど現れない。 溶剤に板を浸す効果は, 光の当たらなかった場所の塗料を取り除くのにある。 しかし溶剤の性質によっては, これと反対の結果を得ることもある。 すなわち光の当たった部分を取り除き, そうでない部分をそのままにしておく。 石油や精油の代わりにアルコールを使った時におこるのがこれである。 蒸気や熱による溶解の方がのぞましい。 これであると望むところで止められる。 しかし膜はアスファルト (vernis) のようではいけない。 できるだけ艶がなくて, 白色でなければならない。 溶剤の蒸気は光の強度の大小に従って, 膜に浸透してその濁りを除くだけである。 この手法によると, 板を溶剤に浸したときには全く得られなかった諧調を得ることができる。 私の試みた数多くの実験によると, 光が物質の表面に当たって変質の痕跡も残さないことはあり得ない。 しかし同じ物質を陰に放置すると, その変質の大部分は回復するのが認められた。 ただし, 光がこれを完全に変質してしまわない時に限ってであるが。 これを確かめるためには, 次ぎのようにするとよい。 陰の効果を調べるために, 上に説明した方法で, 同じような2枚の板を作り, これに光を当てる。 光の作用が現れたら, 2枚の板を取り出す。 1枚ではすぐに溶剤の効果を試す。 別の1枚の方は箱に入れて数日間そのままにしてから, その後で始めのと同じように, 溶剤の効果を試す。 すると第2の板の結果が第1の板のと違うのが分かるであろう。 これから, 大部分の物質では-特に全ての塗料 (vernis) では確かに-大変に速く変質するが, この変質は陰におくと元にもどる性質もある事が結論される。
- 中京大学の論文
- 1992-01-28
著者
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