戦時下の女子教育I : 高等女学校家庭科と関連して
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
昭和初年から15年頃までの高等女学校の教育制度は,地域の要請で多様化され,進学希望者に高等科,専攻科,補習科を設け,実科高等女学校では特に裁縫の時間を多くする等の措置がとられた。同7年に「公民科」が置かれ,明治以来の良妻賢母の教育理念に,公民としての教養が強化された。また同時に勤労の尊重と職業観の確立が強調され,家風に順応し,家を伝承することを第一の任務としてきた女性に,国家社会の要請に積極的に応えるための人格の形成を求められたのである。これによって良妻賢母主義教育のもつ二面性(家庭内での婦徳と,外での軍国の母的な健気さ)は一層内部的矛盾を深めることになったが,女性は婦徳の忍耐と諦観によってこの矛盾を克服した。このように自己犠牲によって克服したことは立派な道徳的行為と考えられるが,近代的教育理念からみれば不幸な事であったと思われる。中学校の教育課程も生活に有用なものに改正されたが,進路の違いによる2コース制がとられ,自主独立の精神や青年の潤達な気風が求められ,積極的な人間像の形成を目的としていることがわかる。また女子と同様に「公民科」が置かれたが,皇運を扶翼し,尽忠報国の精神に燃えて国家の大義に生きる人格の形成を唯一の教育理念としているところに女子の教育理念との相違があると考えられる。戦争は女子に職業人としての自覚をもたらし,女子の公民教育は臣民としての平等観を生み,物資の欠乏のために家庭科は尊重され婦徳の養成にも深く関係して尊重された。これらはいずれも女性自らの自覚によって得たというよりも,戦争という特殊な諸条件の中で醸成されたものであるところに,この時代の女子教育との関連による特異性があると考えられるのである。
- 東京家政学院大学の論文
- 1981-10-01
著者
関連論文
- 戦時下の女子教育II : 高等女学校家庭科と関連して
- 吉田松陰の女子教育論に関する考察
- 学習指導案に関する一考察 : 中学校技術・家庭科
- 山鹿素行の女子教育論に関する考察
- 上杉鷹山・細井平洲の女子教育論に関する考察
- 伊藤仁斎の女子教育論に関する考察
- 貝原益軒の女子教育論に関する考察
- 熊澤蕃山の女子教育論に関する考察2 : 『詩經周南之解・召南之解』『女子訓上』『女子訓下』(2)
- 熊澤蕃山の女子教育論に関する考察1 : 『詩經周南之解・召南之解』『女子訓上』『女子訓下』(1)
- 中江藤樹の女子教育論に関する考察(3) : 春風・陰〓・女訓・倭歌・書簡・翁問答
- 中江藤樹の女子教育論に関する考察(2) : 鑑草(その2)
- 中江藤樹の女子教育論に関する考察(1) : 鑑草(その1)
- 戦時下の女子教育I : 高等女学校家庭科と関連して
- 創造的能力を伸ばす調理教材の構造について : 中学校技術・家庭科
- 家庭管理能力について : その形成と家庭科教育との関連
- 藤原惺窩の女子教育論に関する考察
- 熊澤蕃山の女子教育論に関する考察 4 : 『源語外傳』巻之下について
- 熊澤蕃山の女子教育論に関する考察 3 : 『源語外傳』巻之上について