重要施設への航空機落下確率評価
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概要
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1.序 重要構造物への航空機落下に対する安全設計に際しては、まず構造物への落下確率が評価される。そしてこれが許容値より小さければ航空機落下は設計対象から除外される。さもなければ適切な対応がなされる。Fig.1に航空機落下に対するリスクアナリシスのフローを示す。本論ではこのフローのうち、航空機落下確率評価法の研究例をレビューし、その中で、レーストラックパターン飛行に対する落下分布関数の改良を提案する。ここに、落下分布関数は飛行不能状態になった位置から見た地表各位置の、単位面積あるいは単位長さへの落下密度を表している。本論文ではさらに、フリー飛行領域からのプラントヘの落下確率評価法を提案する。これらの落下分布関数に対し感度解析を実施する。2.各飛行パターンに対する落下確率評価式 2.1.飛行場への離着陸 John M.Vallance[1]は1964年から1968年までの5年間における米国の801件の航空機事故を調査し、その内から飛行場への離着陸に関係する30件のデータを用いて、飛行場から5マイル以内に適用するための落下分布関数(D)を(2)式のように決定した。2.2.飛行場近辺(5マイル以遠) Niyogi等[2]は飛行場に関連する飛行からプラントヘの落下確率を(3)式で評価している。この式は飛行場から5マイル以遠に適用され、飛行形態が飛行場に関して軸対称であるとの仮定に基づいている。2.3.直線航空路 Kenneth A.Solomon[3]は直線航空路からプラントヘの落下確率を(4)式で評価している。そこに含まれる落下分布関数としては(5)式を推奨している。距離減衰係数(g)として、(6)式のように航空機種毎に別の値を提案している。2.4.レーストラックパターン飛行 K.Hornyik等[4]は戦闘機のレーストラックパターン飛行からプラントヘの落下確率を(7)式で評価している。このとき落下分布関数としては単純な近似式として(8)式を用いている。これは事故発生地点を原点とする極座標表示で、半径方向、円周方向共に直線的に低減する形をしている。事故発生時の飛行高さの影響を(9)式のように最大滑空率と最大旋回率で考慮している。Hornyikは文献[5]において、落下分布関数がDとΓで規定される範囲外で0となるのは現実的ではないこと、航空機事故がプラントの極く近く(極めて遠く)で発生したときには過大評価(過小評価)にななることを指摘している。そしてさらに、より現実的な落下分布関数として、半径方向にはガンマ関数を、円周方向にはガウス関数を利用することを示唆している。1985年8月12日に日本で発生した日航ジャンボ機墜落事故はこの提案の妥当性を示している。その事故では飛行機はその方向操縦機能は喪失したが、エンジンは推力を保持し続けた。このような場合には最大滑空率で与えられる範囲を越えた遠方まで到達する可能性がある。本論ではHornyikの示唆に従い、(10)式およびFig.6で与えられる落下分布関数も考慮し、計算例において(8)式による結果と比較した。計算例 Fig.7に示されるレーストラックから評価対象線上にあるプラントヘの落下確率を求めた。Hornyik型のパラメータのうち、最大滑空率(C_d)については10と20の2ケースを考慮した。一方、最大旋回率(C_θ)については0.1度/mで一定とした。ガンマ-ガウス型のパラメー夕(υ,σ_θ)については、(11)式で与えられる2次積率がHornyik型と同じになるよう設定した。(7)式の時間に関する積分は、飛行速度が一定と仮定して線積分に変換し、レーストラックを微少有限線分要素に分割して各要素の和として求めた。計算結果をFig.8に示す。これによると、標的側(右側)は飛行高度が低く最大滑空率で与えられるDが小さいので、Hornyik型の結果は距離の増大と共に急激に値が低下するのに反し、ガンマ-ガウス型の結果は低下の度合いが比較的小さい。距離が5km付近のレーストラックの近傍ではHornyik型の結果はガンマ-ガウス型の結果より大きい。これらの傾向は前述のようにHornyik[5]が指摘した通りである。反標的側(左側)は飛行高度が高いので両関数の結果は5〜25km(C_D=20)あるいは5〜12km (C_D=10)の範囲までほぼ同等の結果となっている。それより遠方ではHornyik型の結果は最大滑空率で与えられるDの制限によりガンマ-ガウス型の結果に較べて急激に低下している。2.5.フリー飛行 ある種の飛行空域では飛行形態に関する情報が入手できないこともある。本論ではこのような空域の飛行をフリー飛行と呼ぶ。著者によりフリー飛行区域近傍に位置するプラントヘの落下確率評価法が提案された。フリー飛行区域内の飛行密度および飛行方向が均一であるとの仮定を用い、フリー飛行に対する落下分布関数として、レーストラックに対する落下分布関数を軸対称に修正して次のように設定した。Hornyik型(パラメータ : C_d)、(12)式およびFig.9 : ガンマ型(parameter : κ)、(13)式およびFig.10 : ガウス型(パラメータ : η)、(14)式およびFig.11 : これらの落下分布関数を用い、(15)式の積分をフリー飛行区域全域にわたって行うことによりプラントヘの落下確率が得られる。計算例 Fig.12に示されるフリー飛行区域からプラントヘの落下確率を求めた。 Hornyik型のパラメータのうち、最大滑空率(C_d)については変数として扱った。ガンマ型とガウス型のパラメータ(κおよびη)については、(16)式で与えられる2次積率がHornyik型と同じになるよう設定した。(15)式の体積積分はフリー飛行区域全体を微少有限要素に分割して各要素の和として求めた。計算結果をFig.13に示す。これによるとHornyik型とガウス型の結果はほぼ同一となっていて、その最大値はC_Dが3近傍で生じている。一方、ガンマ型の結果はC_Dが5近傍で最大値が生じている。この違いの原因としては、Hornyik型の落下分布関数は半径がDより外では0であり、またガウス型のものはexp(-r^2)の形で距離の増加とともに急速に減少するのに対し、ガンマ型はexp(-r)の形で比較的ゆっくり減少するためと思われる。これらの分布関数の差がHornyik型/ガウス型とガンマ型の結果に僅かの差を生じている。しかし年間落下確率という工学的な意味においてはFig.12に示される配置に関しては3種類の分布関数はほぼ同等の結果を与えている。Lothar Sutterlin[6]は評価区域内均一飛行の場合の落下確率評価例を示している。そこでは旧西ドイツ全体に対し飛行密度と事故発生確率を均等と仮定している。文献[6]によれば旧西ドイツ全体(2.5×10^<11>m^2)における戦闘機の年間平均落下数は25機なので、有効面積100m×100mのプラントヘの年間落下確率を(17)式で与えている。3.結論 各飛行形態毎にプラントヘの落下確率評価式を計算例とともにレビューした。レーストラックパターンに対する落下分布関数としてガンマ-ガウス型分布が提案され、Hornyik型による結果と計算例において比較された。フリー飛行区域からの落下確率評価法が新たに提案され計算例が検討された。もし一つのプラントに対し、独立した異なる飛行形態からの落下の可能性がある時は、各飛行形態から得られる落下確率の総和としてプラントの年間落下確率を評価しなければならない。航空機落下の事故原因は、次の三者に大別される。a)機体に原因するものb)制御系に原因するものc)パイロットに原因するもの各事故原因に対して、落下分布関数は異なる形状となるであろうが、本論では事故データの資料不足のためこれらの差異を考慮しなかった。落下確率評価結果の精度を向上させるためには、対象プラントに影響するような航空機事故に対する、より精密な統計量の把握と事故発生機構の調査が重要である。
- 1995-11-30
著者
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