輸出競争と経済統合
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概要
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経済統合問題への新しい視点からのアプローチとして,本論文では共同で域外輸出戦略をとる統合機構を考える。モデルは考察対象となっている産業のみの部分均衡である。同一の財を生産・輸出する企業が2国に存在し,それらの企業が第3国の市場を舞台に輸出競争を行っているとする。この競争は単純なクールノー・ナッシュ複占モデルとして理論化される。均衡は2段階ゲームによって達成され,第1段階では各政府が同時に補助金/輸出関税水準を選択し,第2段階では各企業が同時に産出水準を選択する。また,この論文では輸出国と輸入国の間で非協力ナッシュゲームが行われるが,両輸出国間の経済的相互依存関係については3つのスキームを考える。すなわち,(I)通常の非協力ナッシュゲーム,(II)共通の域外政策をとる協力ゲーム,(III)域内厚生の最大化を図る協力ゲーム,である。分析の結果, (I)の均衡においては,輸出国は共に輸出補助金を与え,輸入国は輸入関税を課している。両輸出国は囚人のジレンマに陥っている。しかし,両国政府間の十分な協調によってこの状態から脱することができれば,輸出補助金ではなく,むしろ輸出関税を課すことが両国にとって望ましい。経済統合という協力ゲームによってこれを達成させようとするのが,スキーム(II)と(III)である。(II)では,関税同盟理論で問題となっている域外共通関税問題が解決し,費用条件の良い国が域外交渉を行うことで輸出国側が合意することがわかる。また,(III)では,費用条件の良い国に生産を任せることが望ましくなり,生産を任された国は輸入国に対して供給独占者となる。
- 慶應義塾大学の論文
- 1993-12-25