下顎骨非対称誘導ラットにおける下顎骨形態および咀嚼筋組織の変化について

概要

論文の詳細を見る
動物実験において顎骨変形のメカニズムを検討することは, 純粋に骨成長の制御機構解明に役立つとともに, 成長期における矯正治療に基礎的な知見を提供する点で臨床的にも意味深いものがある.本研究では, 咬合異常が顎変形の発症に及ぼす影響を経時的に把握することを目的として, ラットの上顎切歯に下顎を左側へ偏位させるための咬合斜面板を装着した後, 37週目まで飼育し, その骨形態, 骨密度および咀嚼筋線維の代謝活性の変化を比較検討した.偏位させた下顎の左右差を明らかにするため, 側面頭部X線規格写真上に左右別々に設定した基準点間の距離および骨密度を測定した.また咀嚼筋に関しては, ATPase染色を用いて左右咬筋の平均筋線維構成比率, 面積率, 筋線維直径を測定した.その結果, 以下のことが明らかとなった.1. 咬合斜面板の装着により右側下顎骨長が長く, また左側下顎枝高が高くなる傾向を示し, 左右下顎骨の骨密度および咬筋筋線維の代謝活性にも有意差を認めた.2. これら骨形態, 骨密度, 筋組織における左右差は, それぞれの測定部位によって発現する順序に違いがみられた.特に関節突起部に関連した計測項目では咬筋組織の変化に先行して骨形態が変化し, 下顎角部に関連した計測項目では骨形態の変化に先行して咬筋組織の変化が認められた.3. 骨形態に左右差が現れてから一定期間経過後, 筋突起部, 下顎角部の骨密度の左右差が消失する傾向が認められた.以上から, 顎の偏位を誘導する咬合異常は直接, あるいは筋組織の変化を通して顎変形症を誘発する可能性があり, その発生機序には部位的, 時間的特性があることが示唆された.また, その下顎骨変形後は, 骨密度に適応変化が起こることも同時に示唆された.
日本矯正歯科学会の論文

著者

中納治久
昭和大学歯学部歯科矯正学教室

下顎骨非対称誘導ラットにおける下顎骨形態および咀嚼筋組織の変化について

スポンサーリンク

概要

著者

関連論文

スポンサーリンク