1881 年の神田橋本町改良事業に関する研究 : その 3 普通営業人への貸付と貧窮民のゆくえ
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概要
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1881年の神田橋本町改良事業について千代田区史は, 「この事業が明治十四年という時代に行なわれたことは特筆に価しよう。」と肯定的評価を下しているが, その内実は本研究で明らかにして来たごとく, 極めて問題の多いものであった。事業としてはクリアランスの面だけが先行し, 従前居住・営業人に対する対策はほとんど無く, 結局, 同地区居住者の90%以上を「何レノ処ニ向ッテ去ルベキカヲ予定」することなく逐い出してしまったのであり, 更に貧窮民を行く先々で, 府・区・有力者が一体となって排斥することまでしたのである。森鴎外が「市区改正ハ果シ衛生上ノ問題ニ非サルカ」で批判を加えたのは, 単に当面の批判の対象にあげられた松山棟庵などの二三の医家の論説だけではなく, その背後にある行政当局, 府会議員などに代表される資産階級の思想であり, 更にその様な思想にもとづいて行なわれた橋本町改良事業の経過のような現実ではなかったであろうか。では, クリアランスの後の改正計画は目的を達したといえるだろうか。たしかに買収後の改良事業は, 一定の計画意図にもとづく改正計画として行なわれた。しかし, 居付地主への切坪残し地, 焼残り土蔵, 貸付がおくれる間に進んだ仮家作居住などに左右されて「計画」は実施の過程で大きくゆがめられた。又, 借り受希望者が当初予想されたほどなかった為もあって, 貸付条件が緩和され, 規模の小さい敷地, 質の低い建築など再過密化のきざしも現れている。この点でも「面目を一新し」という評価は割引いて考える必要があろう。また, この事業の過程で, 橋本町・柳町両共有地について, それぞれ一括拝借し堅牢家屋を建設して貸家経営をおこないたいとの出願があった。特に柳町出願者は三菱の岩崎弥太郎という, 後に丸の内・神田三崎町などで本格的に都市開発・不動産経営に乗り出した財閥である。この事業がもし行なわれておれば, クリアランスは公共の手により, 再建設は民間業者の手でという再開発方式であり, 銀座煉瓦街の官営再開発ともいうべき事業が思わしい結果を生まず1877年に計画を縮小して打切りになった後だけに注目されるところである。本研究では, 1881年末迄の神田橋本町改良事業の展開を検討したが, 従来, 東京市区改正の起源の中でも殆んどとりあげられて来なかった此の事業の興味のある性格および事業の展開を明らかにすることが出来たと思う。神田橋本町共有地は, はじめ区部共有地として後に東京市有地として貸付地経営され, 1941年にその大部分が当時の借地人に払下処分されるまで続いた。この60年間の貸付地経営時代の橋本町およびその周辺についても興味ある点が少くない。例えば, (1)橋本町共有地が全て貸付されるまでの過程。(2)居付地主の所有地の所有権移転が激しく, 1912年時点で, 既に1881年当時の地主およびその相続者と思われるものの所有地は3筆にすぎないが, その経過。(3)橋本町の再過密化。関東大震災直前の1921年には, 1丁目960.3人/ha, 2丁目808.0人/ha, 3丁目1068.5人/haという人口密度であった。(4)1923年関東大震災復興区画整理事業における橋本町の計画。(5)1941年当時の共有地処分をめぐる問題。これ等の問題についても若干の資料収集をおこなっているので今後検討を進めたいと考えている。
- 社団法人日本建築学会の論文
- 1980-05-30
著者
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