シロカネソウ亜科(キンポウゲ科)の分類
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
シロカネソウ属は主として染色体,花弁,果実などの特徴によって,Isopyrumやチチブシロカネソウ属などとともにIsopyroideae-Isopyreae-Isopyrinae (TAMURA 1968),あるいはThalictroideae-Isopyreae (WANG 1979)に分類されていた。これらのなかでも染色体は最も重要な特徴で,日本産のものは2n=35(KURITA 1954, 1956, 1966, 1967, OKADA & TAMURA 1979)で基本数7の5倍体であると考えられていた。しかし,これらの染色体が実は2n=36であり(KOSUGE & OKADA 1989),また,中国産の種では2n=24である(LI&HSU 1986, Fu 1988)ことが明らかにされ,従ってこの属の基本数は他の属とは異なってx=6と思われる。シロカネソウ属以外のIsopyrinaeの種では,葉は3出し,花序は集散あるいは散形花序,花弁の柄は舷部よりも短い,心皮は1-20個と数が一定せず,また心皮には縦脈がない。一方,シロカネソウ属では葉は鳥足状複葉,花序は二岐集散花序,花弁の柄は舷部よりも長く,心皮は数が2個で一定し,心皮両側にそれぞれ1本づつの縦脈がある。この2個の心皮は基部で合着していると考えられていたが,心皮原基はそれぞれ独立に発生し,クリスマスローズ属やクロタネソウ属のように初めから原基がつながって現われるのではない。WANG&HSIAO(1964)やFU(1988)は花弁,葉,花粉が似ていることより,この属をAsteropyrumやオウレン属と近縁と考えた。しかし,オウレン属やAsteropyrumの花弁や葉は質がより厚い。花粉はオウレン属では散孔性,Asteropyrumでは散溝性であるが,シロカネソウ属ではふつうIsopyrumなどと同様に3溝性である。一部に6散溝性の花粉が認められるものの,これらの発芽孔はしばしばつながり(KOSUGE&TAMURA 1988),3溝性との中間型を示す。このようにシロカネソウ属はオウレン属などよりも,Isopyrumなどに近いと思われ,Isopyreaeのなかの単型亜連,Dichocarpinaeとみなすのが妥当である。Asteropyrumは花弁の形がバイオカウレンやミツバオウレンなどと似ていること,心皮に横脈がないことにより,TAMURA(1968)によりCoptidoideaeに分類された。一方,CHANG(1982)はAsteropyrumの染色体基本数がx=8であることを明らかにし,花粉が散溝性であることなどと合わせて,オウレン属と異なるとし,Thalictroideaeの単型連,Asteropyreaeをもうけた。しかし,A. peltatumの花粉発芽孔は楕円形のものから円形に近いものまで変化し,オウレン属やXanthorhizaにおける散孔性の花粉と明確に区別することは困難である。また,Asteropyrumでも心皮には横脈は見られない。オウレン属では袋果の縦脈からわずかに横脈が延びるものもあるが,この脈はIsopyrumなどのように背束と腹束をつなぐまでには発達しない。Asteropyrumは染色体基本数ではオウレン属などと異なるが,花弁,心皮の脈理などにおいて共通点は少なくない。従って,Coptideaeのなかの単型亜連,Asteropyrinaeとみなすのがよいと考える。従来,小型の染色体をもつ群において,染色体基本数の変化が不連続であることより,基本数をもとに亜科が分けられた。しかし,Isopyroideaeにおいて,シロカネソウ属の染色体基本数x=6はIsopyrumやその他の属のx=7とは異なり,また,CoptidoideaeにおいてAsteropyrumの染色体基本数x=8はオウレン属やXanthorhizaのx=9とは異なり,染色体基本数により両亜科を分けることはできなくなった。従って,ひとつの亜科,Isopyroideaeを花弁と心皮の脈理の違いにより2つの連,すなわちIsopyreaeとCoptideaeに分け,前者をIsopyrinae, Aquilegiinaeとシロカネソウ属の単型亜連,Dichocarpinaeとに,後者をオウレン属とXanthorhizaを含むCoptidinaeとAsteropyrumの単型亜連,Asteropinaeに分類することが妥当と考える。
- 日本植物分類学会の論文
- 1989-07-30
著者
-
小菅 桂子
神戸大学理学部生物学科
-
小菅 桂子
Department of Biology, Faculty of Science, Kobe University
-
田村 道夫
Department of Biology, Faculty of Science, Kobe University
関連論文
- 種子タンパク質によるシラネアオイの免疫分類学的研究
- キングドニアの花の形態と類縁
- シロカネソウ亜科(キンポウゲ科)の分類
- キンポウゲ科における花弁の発生〔英文〕
- 日本産のシロカネソウ属
- キンポウゲ科におけるグルタミン酸脱水素酵素アイソザイムと類縁関係
- 核遺伝子に基づく被子植物群の系統解析の有効性(第26回シンポジウム : 分子系統学の現状と展望)