堀田博士達によって採集された西スマトラ州のシダ植物
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概要
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スマトラ島やジャワ島は早くからオランダの植民地となっていた関係から生物相の調査の歴史も古く、BLUMEの「ジャワ植物名彙」などすでに1828年に出版されている。それだけに植物相調査のように時間とともに進展してゆく仕事は大いに進んでいると思われがちであるが、それはそれまでの資料の集積によるモノグラフ等がやっと順調に出はじめた第二次大戦前までの話で、独立運動によってインドネシアを失った後のオランダは、往時の活動は望むべくもないのかもしれない(顕花植物のvan STEENISのような人がいなかったら、それこそ沈滞といってもよい所である)。いっぽう現地のボゴール標本庫に残された標本も研究体制が整わないまま、その大半が放置されているというのが現状である。この地域におけるシダ植物相の調査報告は、今世紀にはいってからかなり乏しい。まとまった報告としては1925年にジャワ植物ハンドブック1が出ていて、ミズワラビ科、ウラジロ科、カニクサ科、リュウビンタイ科、ハナヤスリ科、トクサ科、ヒカゲノカズラ科、マツバラン科などが扱われているが、植物誌としては断片的なものにすぎない。1940年になって、シダ植物全体を扱った植物誌がライデンのリークスハーバリウムで刷られているが、これは標本館向きの私家版で謄写印刷であり、内容も覚書きといった程度のものらしい(筆者はまだ実物を見る機会を得ない)。それ以後では、KRAMERのホングウシダ科やHOLTTUMのヘゴ科等、分類群によっては調査が進んでいるものもあるが、これらの目的もマレーシア全体の調査の一環としてなされたものであって、まだスマトラ・ジャワの植物相全体の固有の性格に言及するというところまでは及んでいない。堀田満博士達の植物相調査は、西スマトラの一部ですでに3年にわたって継続されており、京都大学に集められた標本の数も次第に増えてきている。この報告で扱ったのは1983年夏の採集の分までで、しかも西スマトラの一地域のものにすぎないが、それでも180種をこえる種が明らかになった。中には新種かと思われるものもいくつかあるが、この地域の文献や情報がもう少し揃うまで保留しておいた。スマトラ島やジャワ島は熱帯圏にあるので、その植物相は日本や中国南部のものとは大きく異なっていると想像されがちであるけれども、山地の植物相について言えば、じつはそうではない。van STEENISの書いた「ジャワ山地の植物相」(1972)には316属の顕花植物が収録されているが、そのうち207属ほどは屋久島以北の日本にある属と共通であり、更に26属ほどのものを沖縄諸島に見いだすことができる。単純な計算によれば、山地性の属では、その73.3%、つまり約4分の3が日本と共通しているのである。この本に扱われている植物は、花の美しいものや、調査のゆきとどいた地域から選択されている可能性もあるので、これをもってジャワの山地全体におしひろげることはできないけれども、べつに日本の読者向けに書かれた本ではないので、この数字は調査が進んでも大きくかわることはないと思われる。中国南部の属を加えると、共通の属は80%を越えるのではないかと、筆者は考えている。だが、こういう属の数字上の共通部分が多いからといって、両者が同じ起源による同じ性格の植物相であるということは早計である。熱帯の山地などの植物相では、種間の棲み分け現象がはっきりないことがわかっているが、これらの共通部分も、もとあった異質な植物相をベースにして、大陸側から何度も植物が侵入していった結果として成りたったものかもしれない。こういう問題を調べるには、それぞれの林の構成種が大陸側のもととどの程度置きかわっていて、どの種とどの種が対応しているかといった観点が大切であるが、それは今後の調査にまたなければならない。このレポートでふれたトウゲシバ、クラマゴケ、Osmunda vachellii等は、そういう意味で興味ぶかい種と言えると思うのである。
- 1984-05-29
著者
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