ツツハナバチ属の卵形成と基部卵母細胞の退化に関する解剖学的および組織学的研究
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概要
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本論文ではツツハナバチ類の卵巣の発達と, 不良条件で誘起される成熟卵の退化現象を解剖学的, 組織学的に明らかにした。1. ツツハナバチ類の卵巣は左右各3本の卵巣小管からなる交互栄養室型である。蛹期, 成虫期の卵巣小管主部は大部分が卵黄巣によって占められ, その中に基部に進むほど発達した卵母細胞が認められる。この卵母細胞の発育は体内における卵巣小管の位置によってほぼ一定の順位があり, 外, 中, 内側の順に完成卵が形成される。2. 老熟蛹や休眠成虫の卵母細胞は卵黄形成直前まで発育するが, その後の発育は認められない。3. 卵形成の組織学的特徴はaccessory nucleiの出現にある。すなわち, 卵黄形成の行なわれていない若い卵母細胞は1個の発達した卵核胞をもち, その核膜にそった卵細胞質中にエオシンに親和性の顆粒が認められる。これは液胞につつまれた形に発達し, 数を増しながら卵細胞質周辺部に移動, おおむね一列に配置される。これは卵黄形成末期まで観察された。4. 退化は最基部の卵母細胞に限って認められる。この退化卵の発育状態は, 卵黄形成は完了したが卵殼の形成は起こっていない場合か, 卵殼形成がほ完了したと思われる成熟卵に限られる。5. 卵吸収が誘起される原因は排卵と花粉団子に作製のテンポが一致しなくなったとき, 上述の状態の卵母細胞は花粉団子が存在しないので排卵されずに, その場所で退化を始める。このような状態は訪花活動に適さない悪天候が続いたとき, また老令のため活動力が低下したときなどに起こる。6. 退化は最初細胞の側面特にその凹側部における濾胞被膜の陥入によって始まる。その結果卵膜(卵黄膜と卵殼)は破壊され, 卵母細胞のほぼ中央部に集められる。卵細胞質は濾胞被膜と膜境界なしに接するようになる。卵黄は変形融合, あるいは崩壊微細顆粒となり, ついには液化消失する。この卵母細胞の退化中, 濾胞細胞は機能的な形態を有し, 卵細胞質を再吸収するものと考えられた。卵膜は空になった卵胞中に残されるが, その後の状態については明らかにできなかった。7. 卵母細胞の退化の早さは飼育温度によって異なり, マメコバチでは23℃下で約8∿9日間で, 18℃下で約15日間でほぼ完全に吸収されてしまった。ツツハナバチではマメコバチよりも退化日数は短く, 23℃下では約6日間で吸収されてしまった。8. 基部の卵母細胞が退化している卵巣小管中では次に続いている各卵母細胞の肥大, 発達の速度が, 正常に排卵された場合に比べて遅延する。このような状態が続き卵巣に産下できる完成卵がない場合, ツツハナバチ類はforaging tripに従事しないで, 土運びと土壁塗りだけの労働に専念し, いわば異常な営巣習性を発揮する。
- 日本昆虫学会の論文
- 1971-07-30
著者
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